「ムカデ人間2」70点(100点満点中)
The Human Centipede II (Full Sequence) 2012年7 月14 日(土)、新宿武蔵野館にて禁断のレイトロードショー! 2011 年/ オランダ・イギリス合作/ 90min. / ステレオ/ ビスタサイズ/ HD / ブルーレイ上映 Six Entertainment 提供 配給:トランスフォーマー
監督・脚本:トム・シックス 特殊メイク:ジョン・シューンラード 編集:ナイジェル・デ・ホンド キャスト:アシュリン・イェニー ローレンス・R・ハーヴェイ マディ・ブラック ドミニク・ボレリ

本気できた

前作「ムカデ人間」の批評記事において、「過激な描写や展開はあえてセーブして、完全版と称する続編にひっぱろう」としている事を看破した。それが図星だったことは、このパート2で作り手たちが作風を180度変更し、私が命じた通り「本気」を出してきたことで証明された。

あの程度の生ぬるい作品に簡単に釣られて絶賛した世界中の純朴なカルト映画レビュアーの目は騙せても、この私の目はごまかせないのである。そして、素直に白旗を掲げた監督らの態度と作品の仕上がりを見れば、この続編についてはさすがに認めざるを得ない。

駐車場警備を仕事とする気味の悪い中年男マーティン(ローレンス・R・ハーヴィー)は、フィクション映画「ムカデ人間」を見て勤務中に興奮する異常な性質を持っていた。やがて自分もムカデ人間を作りたくなった彼は、人々を拉致しては来たるべき「ムカデ人間12人バージョン」作成の日に向け、借り上げた倉庫に監禁していくのだった。

前作はフィクションの映画で、このパート2こそが現実社会という設定にした点が効果抜群。これにより、1作目のぬるさや手抜き感がむしろ有効な伏線、演出として、このパート2の現実世界感の中に組み込まれた。

映像は、ひどく悪趣味なワンシーンを除きモノクロで主人公には一切セリフなしという不気味な作風だが、1作目なんぞとはまったく違うレベルのグロ映画なんだよという主張が、開始後すぐに伝わってくる。

本作品は、この当初の期待感を最後まで裏切らず、通常の劇映画ならあってしかるべき観客への配慮や表現の自主規制などは最小限に抑えられる。観客への優しさや思いやりなどない、ただただ本気で気持ち悪がらせる、不愉快にする、その意味において「本気」である。

パート1ではあえて見せなかった部分も見せるし、誰が助かるか助からないのかといった部分においても、こうしたほうが余計に印象が悪いだろうという方向に脚本は転がってゆく。本物のスナッフビデオかと見まがうような場面も多数。手持ちカメラ中心だが、固定カメラを効果的に使用していたならば、その傾向はさらに強まったろう。

誰もがここまではしないだろうというハードルを易々と超えてくるので、この手のグロ映画に耐性のない人は絶対に見てはいけない。というより、この映画をすすめたい客層が全く想像できない。わざわざ1800円を支払って、こんなに気持ちの悪いものを見る人間などいったい何処にいるというのか。もっともインターネットでわざわざグロ画像を検索してクリックする人もいるくらいだから、どこかに需要はあるのかもしれないが。

排泄物がにおい立つ不愉快な映画だが、特にひどいのが主人公の男。よくぞこんなに気味の悪い主演俳優を連れてきたと、このキャスティングだけでもありえない程の大仕事だろうと思わせる、ものすごいキャラクターが登場する。

その体型、ぎょろっとした目玉、そして奇妙な動き。どれをとっても一つとして許せるところのない、完全無欠のキモ男である。

この男が、バールのようなもので人を殴り、麻酔のない手術をし、尻と口を接続しまくる。名外科医だった前作の主人公と違ってたんなるムカデ人間好きに過ぎないから、医療技術もへったくれもない。殺し方も拉致の方法も手術方式もシンプルで素人くさい分、見ている側のバーチャルな痛みも際限なく上昇する。

ホラー映画は女の子と見ろとの鉄則通り、私はどうやらこちらに気があると思しき知り合いの美女とこれを見たが、よもやここまで強烈とは思いもよらず彼女はドン引き。「見る価値ゼロの映画」などと毒舌批評家も顔負けなひどい感想をぶちまけられた。せっかく朝まで2人ムカデ人間になろうと思っていたのに、トム・シックス監督よどうしてくれる。

今後製作予定のパート3も、おそらくこの路線でいくのだろうが、この衝撃を上回ることができたらこの3部作はホラー史上に残るカルト傑作になる可能性がある。期待は深まるばかりだ。

ところで私の言う通り監督が「本気」で来てくれたのは良かったのだが、結果、あまりにグロすぎてテレビでもラジオでも雑誌でも難色を示され、紹介することができなかった。せっかく頑張ってくれたのにごめんよトム監督。



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