『ラストサムライ』70点(100点満点中)

ハリウッドが本気で作ったニッポンバンザイ映画

ハリウッドのトップスター、トム・クルーズが多数の日本人キャストと競演した、武士道精神の美しさを描く時代劇。

アメリカ映画を見ていると、「アメリカバンザイ映画」とも言うべきジャンルに属する作品を目にする機会が多い。UFOを米軍主体で撃退する『インディペンデンス・デイ』や、トンチンカンな考証が笑える『パール・ハーバー』、そして公開中の『ティアーズ・オブ・ザ・サン』などはその典型だ。

『ラストサムライ』は、いわばそんなアメリカの映画業界が日本人に向けて贈る、ニッポンバンザイ映画。非常に珍しい作品だ。しかも大作として莫大な予算を投入し、主演には世界が認めるトップスターを起用、スタッフにもアカデミー賞の常連が顔を並べている。あのハリウッドが本気で作っている。

渡辺謙や小雪、真田広之といった主要な日本人キャストが、トム・クルーズに引けを取らないほどカッコ良く見えるのは当然である。彼らの資質はもちろんすばらしいが、それに加えて世界最高のスタッフと資金力が、日本人キャストを立てるという目的に向かって、あらゆる努力を行っているのだから。超一級の撮影スタッフ、ライティングスタッフ、スタイリスト、脚本家が今回の彼らにはついている。

これだけ引き立ててもらえば、役者たちはさぞ幸せだろう。もともと3人ともすばらしい個性を持っているが、それを何倍にも良く見せてくれる、これぞハリウッドマジックだ。もしあなたがこの映画を見て、「日本人の役者、超いいじゃん。トムクルーズに負けてないぜ」と嬉しくなったとしたら、彼らのマジックにかかった証拠である。

そしてそれこそが、この映画の本質。『ラスト・サムライ』を見ると、前出のアメリカ万歳映画をみたアメリカ人の気持ちが、日本人も初めて体験できる。それは気恥ずかしいような誇らしいような、不思議な体験だ。

そんなわけでこの映画に対し、アメリカ人が作ったことによる些細な不自然さ、奇妙な風景などを突っ込むのは野暮もいいところ。

全世界で公開することを前提としたこの作品の事情を考えれば、特にアメリカの観客にとってはこの辺が限界。これ以上日本の歴史について深く正確に描いたところで、そう簡単にあちらのお客さんは理解などできない。また、いち娯楽映画である本作に、それを期待するのもどうかと思う。『ラストサムライ』は、「サムライバンザ〜イ! さあみんなで感動の涙を流そう!」という映画なのだから、このくらいでちょうどいい。

問題は、日本向けプロパガンダまがいである本作の目的だが、それはあえて皆さん各自の想像にお任せしたい。そんなわけで『ラストサムライ』は、日本人こそ見るべき面白い映画である。真面目な映画だと思えば肩透かしを食らうが、上記のような解釈で見れば、話の種がつきない。



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