『茄子 アンダルシアの夏』50点(100点満点中)
クォリティは高いが、物語と演出がイマイチ
カンヌ国際映画祭に、日本アニメとして初めて正式出品された、47分間の中編アニメーション映画。劇場では、入場料が1000円均一で公開される。実際に自転車競技を趣味とする高坂監督に、宮崎駿氏が原作コミックをすすめたことをきっかけに、製作が実現された。
「千と千尋の神隠し」(作画監督を担当)をはじめとするスタジオ・ジブリ作品に、深く関わってきた監督だけに、アニメーションとしてのクォリティは高く、47分間の短さとはいえ、単独上映に耐えるだけのものは充分ある。
作中では、競技スポーツとしての自転車を、ディテールにこだわって描いており、隊形における戦術等、集団戦としての側面、水の補給シーンなど、実写よりもある意味リアリティを感じさせる。
走行シーンのスピード感も充分で、迫力を感じられる。乗っている人物とのわずかな見た目上の比率のズレでさえ、大きな違和感を感じさせるため、「自転車アニメは技術的に難しい」といわれるが、『茄子 アンダルシアの夏』は、その点、非常に良くできている。
ただ、不満が残る点もある。
まず、画面がスタンダードサイズだと言う事。スタンダード・サイズとは、縦横の比率が、テレビに近い画面だと思ってもらうとわかりやすい。
この映画は、スペインを舞台にしているが、アンダルシアの雄大な景色を描くには、横長のシネスコサイズのほうが適している。こじんまりとしたスタンダードサイズはこの映画には似合っておらず、マイナスである。スペイン独特の空気感、市街地でのレースの雰囲気などはとても良く伝わってくるだけにもったいない。
次に、声優の問題。ヒロインを演じているのは、女優の小池栄子であるが、彼女の貧弱な演技力は『恋愛寫眞』で実証済みである。まあ、多少下手なのは許せるとしても、キャラクターの性格に、声の質そのものが合っていない印象なのだ。
また彼女は、マスコミ向け完成披露試写の舞台挨拶にこなかったが(監督は来た)、どうみても話題重視でキャスティングされた立場だというのに、こういう場に出席しないというのも、あまり印象は良くない。
そして、やはり47分間では、登場人物を充分描ききるには時間が足りなかった。ドラマとしての深みが足りず、鑑賞後の満足感を得るには充分ではない。こう考えると、やはり入場料金を下げざるを得ないという気もしてくる。
カンヌでは、あまり目だった活躍が出来なかったようだが、決して悪い映画ではないだけに、高坂監督の次回作品に期待したい。