『六月の蛇』70点(100点満点中)

エロシーンに思い切りが無いが、見所の多い作品

かなりの低予算で作られたと思われる、ストーカー写真家と露出オナニー女と、潔癖インポ男の話だ。

邦画の小品のなかには、本作のように良質な作品が結構ある。『六月の蛇』も、万人向けでは無いが、チャレンジ精神溢れるいい映画にしあがっている。

画面は、テレビの比率に近いスタンダードサイズで、青っぽい色調のモノクロだが、この特徴を存分に生かし、フレーム全体を上手く使っている印象を受ける。監督さんは、当初正方形の画面で公開したかったようだが、さすがにそれは実現しなかった。ちょっとそちらも見てみたかったと思う。

冷め切った夫婦を表現するために、冷めた食事とデザイナーハウス、ざらついた映像といった要素を象徴的に使っており、これらによる非日常風味は、この映画にピッタリ。

また、暴力シーンでは、オイルまみれになる男が、モノクロ画面だとまるで血まみれのように見え、抜群の演出効果を上げている。こうした、挑戦的なアイデアが、各所に見られるのが面白い。ただ、意味不明、解釈不能なシーンもある。そのへんはまあ、適当に流しておけばいいかと思う。

少々不満なのは、この作品の主題にも関わってくる、肝心のエロシーンに思いきりが感じられないという事である。

同じエロシーンでもたとえば、今週公開の『発禁本』などは、女性の股間に、男が口をつけてモグモグやっている、「よく映倫もOKしたな」というようなシーンがある。それに比べてこちらは、カメラが女優の裸を上から舐めて行って、へそが写って、いざ下半身だ、というところで別のカットに変わってしまう。明らかに、「ああ、ヘア写すのを避けてるのね」とわかってしまう。

そうしたカット割りは、こうしたリアリズムを描く映画の場合、うまくやらないと観客に不自然な印象を残してしまう。テレビの2時間ドラマならともかく、この映画の作風なら、もっとストレートな描写が似合うと私は思う。許されるならば、バイブを挿した股間を写すくらいの勢いがあってもいい。

さらにいうと、女のエロ演技がイマイチリアルじゃない。普通、トイレであんな大声出さない。声を押さえつつ、快感に悶える表情というのを求めたい。

それでも、エロティシズムをモノクロ画面に描いた『六月の蛇』は、今上映している邦画の中では、相当上の方にくる作品といえるだろう。



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