『DEAR WENDY ディア・ウェンディ』80点(100点満点中)

特徴的な演出技法と、素晴らしい銃撃戦を持つ映画

ラース・フォン・トリアーという映画作家がいる。「イマドキの映画界の軽薄な流行はけしからん」とばかりに、「オールロケ、音楽や人口照明は禁止、カメラは手持ち撮影で」などの独自ルール(ドグマ95と呼ばれる)を提唱したり、『ドッグヴィル』という映画では、セットの代わりに床に白線を書くなどの演劇的手法を大胆に取り込むなど、なかなか風変わりな人である。

そして、その彼が脚本を書き、ドグマ95仲間のトマス・ヴィンターベアが監督した、これまたかなり風変わりなドラマが『DEAR WENDY ディア・ウェンディ』だ。これは、既存の映画にちょっと飽きている、といった方にぜひすすめたい、個性的な作品。

アメリカのどこか、寂れた炭坑街にすむ少年(ジェイミー・ベル)は、ひ弱なために炭坑の仕事が続けられぬ自分にコンプレックスを持っていた。ところがある日、偶然本物の銃を手にした彼は、その圧倒的パワーをあえて他者に誇示せず、コントロールすることで、自分に自信を持つ事に成功した。やがて彼は、かつての自分と似た負け組の者たちを集め、ひそかに銃を愛好し、研究するサークルを結成する。

主人公の少年が、自分に自信をもつようになる過程が面白い。銃を持てば誰もが大きな気になるってのは心情的にわかる。が、この主人公はそういう単純な自己満足ではなく、殺人の道具である銃(のパワー)をコントロールし、決して人に見せず、人に対して使わないことで、強い心を得ようとするのである。そこには、武士道のような雰囲気すらも感じられる。

誰よりも強い平和主義者である彼が、殺傷の道具を愛好する。そして、支配しようとする。この構図が本作のテーマを理解する上での、大きなポイントになる。

物語自体は、現実を超越したところにあるというか、ひらたくいえばリアリティはない。……が、人間描写は恐ろしいほどリアルだ。このギャップが強烈で、おかげで心ひかれるドラマとなっている。これは、脚本の主題をよりダイレクトに伝える、うまい演出手法といえよう。

銃によるアクションシーンがクライマックスに用意されているが、この銃撃戦がまた素晴らしい。派手ではないが、近年まれにみる優れたものと私は思う。純粋にカッコいいし、撃たれる痛みが伝わってくる演出には舌を巻く。これはぜひ見てほしいと思う。

ラストにも、それなりのカタルシスがあり、お客さんの多くは満足して帰ることが出来るだろう。やや特殊な映画ではあるが、案外肌に合う人もたくさんいると思う。普段は娯楽映画ばかりの人も、ぜひ挑戦してみてほしい。



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