『ドッグヴィル』85点(100点満点中)
奇抜なアイデアを見せるための映画になっていない点がよい
カンヌ映画祭を騒然とさせた話題作。何がビックリかというと、そのセット。だだっ広い体育館みたいな場所の床に、なんと白線を引いただけ。各区画には「誰々の家」などと書いてあり、椅子など最小限の家具だけが置かれている。壁や屋根は一切無い。その家に入るときは、存在しない「ドア」を俳優が演技だけで表現して開けて入って行く。
ここで3時間(177分)、9章立ての物語が展開する。考えただけで退屈しそうな気がするがさにあらず。非常にエキサイティングなドラマが繰り広げられる。見た目のほうも、カメラアングルや光の具合等でメリハリをつけ、飽きさせない。セットがシンプルな分、それ意外の部分で相当工夫を凝らしているのがわかる。
終わってから考えてみると、この舞台劇のような奇抜な演出アイデアは必然だったと感じさせる。単に奇をてらっただけであったならば、ここまでは誉めはしないが、この話のテーマのひとつ「権力のもつ怖さ」の普遍性を際立たせるという意味で、「白線だけ」のセットは大いに効果を上げている。
大恐慌時代のアメリカを舞台にしてはいるが、何しろ目の前にあるのは「白線だけ」なので、観客はたやすくそれぞれの立場に置き換えてこの話を見ることができる。その意味で、本作を単なる「アメリカへ対する風刺」と見るのは的が外れている。それならば、わざわざこんな技法をとらずともよいわけなのだから。
派手な爆発も何も無い映画なのに、観客に与える衝撃は相当なもの。見たことも無いアイデアと、それを受け止めた面白いドラマ。両方がかみ合ったことで、誰もに見てほしいと自信をもってオススメできる作品となった。