『スチームボーイ』40点(100点満点中)

声優全滅、完成も遅すぎた

全世界で高い評価を得、多くの映像作家に影響を与えた『AKIRA』の大友克洋監督の最新作。長編アニメーションとしては二作目となる。総製作費24億円、製作期間はなんと9年という、世界が期待する超大作だ。

19世紀の英国。ある日、主人公の少年の元に祖父から謎の金属ボールが届く。直後、やってきた怪しげな男たちがそのボールを奪おうとしたため、少年はその“スチームボール”を手に家を飛び出すのだが……。

2004年は日本アニメ界三大巨匠揃い踏みの年。押井守監督『イノセンス』に続き、いよいよ世界のオオトモ監督最新作の登場である。(この後は宮崎駿監督『ハウルの動く城』の公開が控えている)

『スチームボーイ』は、製作スタジオの途中変更等さまざまな事情のため完成が遅れたいわくつきの作品だ。10年近くに渡る製作期間の間には、デジタル技術が大いに進歩を遂げ、製作開始当時とはアニメの作り方自体も大きく変化した。特に構図やカメラワークの制限がなくなったおかげで、『スチームボーイ』のアクションシーンは大いに恩恵を受けたとされる。

確かに『スチームボーイ』は、アニメーション映画としては大作で、その品質も高い部類に入るだろう。だがしかし、この映画を見るのは長期間大友監督の新作を待ちつづけ、どちらかといえば目の肥えている観客たちである。先日公開された『イノセンス』の圧倒的なクォリティも、当然のこと目の当たりにしているだろう。そう考えると、『スチームボーイ』はだいぶ見劣りする出来映えのような気がしてならない。

2Dアニメと3Dアニメの滑らかな融合も、細部にこだわった背景美術も、異様に発達した蒸気機関の世界観も、そして大友作品に共通するテーマ性でさえ、今となってはもう二番、三番煎じなのである。『スチームボーイ』には、新しさも、観客を圧倒する“何か”も感じられない。中には『スチームボーイ』が先鞭をつけた要素があるかもしれないが、完成があまりに遅れすぎた。5年前ならともかく、2004年の今、この作品はすでに古い。

ストーリーは、少年の冒険をアクションたっぷりに描いた娯楽作で特に良くも悪くも無い。セリフが陳腐でかなり子供向きな印象を受ける。アクションシーンは音響とのコンビネーションがイマイチで、見せ方が下手だ。普通のアニメなら許せても、大友作品に求められるレベルは高い。まだまだこの程度では観客は満足すまい。

そして、致命的なのが声優陣である。普通の俳優など、非プロ声優を並べた主要キャストはほぼ全滅。主人公の鈴木杏をはじめ、はっきりいって全員が下手。どうしようもない。

アニメーション映画には専門の声優を使ったほうがいいのは、誰の目にも明らかなことだ。なのにそうしないのは、何がしかの政治力が働いているのだろうと推測されても仕方が無いが、それが結局作品の質を決定的に下げているのだからひどい話だ。それとも、日本以外では別の声または字幕が当てられるので関係無いということか。だとしたら、日本の観客はずいぶんとなめられたものではないか。



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