『イン・ザ・カット』20点(100点満点中)
メグ・ライアンの終焉
かつてロマンティック・コメディの女王といわれ、アイドル的女優として日本でも多くのファンを獲得したメグ・ライアン主演のミステリドラマ。ミステリといっても謎解き型ではなく、他者を上手に愛せないヒロインがちょいとイイ男に出会って、中年デビューするという話である。よって、この映画の見所は、40代の女性主人公が性と愛に目覚めていく内面ドラマの部分にある。
メグ・ライアンという女優はロマコメで名を売って以来、どうも本格派女優に脱皮し損ねたところがあって、いまや年齢とともに人気も衰える一方だ。これを打破すべく彼女は、過去に一度しか披露していないハダカをついに本作で解禁した。清純派のイメージを捨て、女優としてのステップアップをはかった意欲作というわけである。
ところが、悲しいかなメグさんは濡れ場の経験が圧倒的に少ない。そのくせ『イン・ザ・カット』のセックス・シーンはやたらと過激で直接的(モザイク有)なので、ハイレベルな演技を求められる。結果は散々であった。
むろん、なにもプロ並に腰を振る必要はないのだが、見ていると役というより女優としての必死さが伝わってきて、思わず「あのメグ・ライアンがここまで落ちぶれてしまったのか……」との痛々しさばかりがつのる。その瞬間、一気に現実に引き戻されるという按配だ。
鳴り物入りで公開されたヌードも、老けすぎの印象でこれがまた痛い。まだ40代なのだから、鍛えれば体型は維持できる。もっと頑張ってほしいところ。
映画に話を戻すが、『イン・ザ・カット』は主演女優という屋台骨が崩れかけている上、ストーリーや演出等、他の要素にも特筆すべき点がない。もともと女性の共感を得なければ始まらぬ作品だが、非現実的な数々の仕掛けや、すっきりしない語り口のせいで、女性に限らずお客さんの心は離れる一方だ。
実は当初、ニコール・キッドマンが本作のヒロインを演じるはずだったが、彼女はさっさとメグに役を渡してしまい、自分は製作という裏方に回ってしまった。その本音はわからないが、名実ともに現在のハリウッドのトップスターであるニコールは、この映画に出て自分の女優としての「格」が落ちる事を心配したのではないか。
上昇中の女優は、そうした予感には敏感なものだ。『ドッグ・ヴィル』や『コールド・マウンテン』(こちらはまだ日本公開は先です)など、出来の良い近年のニコール出演作品と、『イン・ザ・カット』は比べるべくもない。彼女がそのような判断を下したとしても不思議ではない。
とはいえそれでも本作は、メグ・ライアンの裸がいやというほど見られるし、あの特徴的な可愛らしい口もとに、○○○が埋まっているなどという、予想以上に過激なシーンもある。メグファンは必見だろうし、見た後の話題性も抜群だ。メグ・ライアンの終焉……になりかねない出来映えなのが残念であるが。
個人的には、彼女には50になってもロマコメにチャレンジするくらいの気概がほしい。元祖ロマコメの女王として、某新女王など吹き飛ばすくらいの誇りを持ってやってくれたらいいと思う。