『2009年の総括』
はじめに
「超映画批評」読者のみなさま、あけましておめでとうございます。
せっかくの正月に当サイトの、それも一番、暮らしに役立ちそうもない当コラムを読んでいる皆さんは、間違いなく善人であろう。この時期、海外に優雅に出かける人々も少なくないが、不況とトモダチの当サイトにとっては無縁な話だ。
おまけに昨年までは、こうした文章を書く暇さえなかった。31日まで仕事をしていたし、仕事始めは元旦だった。考えてみれば休みがないような気もするが、愚痴を言う相手はもちろんいない。
しかしうれしい事に、そんな状況を見かねてか暖かいメールを送ってくれる名もなき人々がいる。「がんばってください」「いつも楽しみにしています」「総括を書け」「書かないともう来ないよ」など、心温まる文面にその都度、涙を流しながら読ませていただいた。
幸いなことに1月第1週はほとんど公開作品がないため、今年は思い切って通常の更新をやめ、多くのリクエストに応える意味で総括をすることにしたい。
突発的大ヒットが目立った2009年
さて、2009年も様々な映画業界的ニュースがあった。とくにひとつ特徴的なものをあげるとすれば、「予想外のヒット作品が目だった」ということか。
期間限定公開ながら年間興収ベストテンに絡んだ「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」(09年10月28日公開)や、「ONE PIECE FILM ワンピースフィルム STRONG WORLD」(09年12月12日公開)の常軌を逸した大ヒットぶりは、一般紙がこぞって取り上げたほどの大ニュースだった。
とくに後者は、原作者の尾田栄一郎が内容に大きく関わった事もあるが、来場者にコミックス0巻をプレゼントする「おまけ作戦」が功を奏した形だ。
映画におまけをつけること自体はポケモン劇場版など、よく見られるビジネスモデルだが、オークションで1冊1万円を超えるほどのプレミアがつくほど魅力的なものをつけるのは意外な盲点であった。さすが、日本文化の代名詞というべき漫画界の発想は違う。
考えてみれば、映画業界の考える販促グッズにはろくなものがない。暗闇にお化けが出る映画のときなどは、懐中電灯をもらったことがあるが、確かに暗闇では便利なものの、一体これをどう使って映画を宣伝すればいいものか、一晩悩まされた。
シネコン出店も頭打ちでこれから厳しい時代が到来するであろう映画業界は、今後はワンピースの成功例を見習い、どんどん魅力的なおまけをつけたらいい。北海道のタラバカニセットとか、秋田の吟醸酒とか、そういうおまけだったら私でも行く。──引き換え窓口までは。
邦画の話題作「20世紀少年」三部作
三部作のパート2と完結編「20世紀少年<第2章> 最後の希望」(09年1月31日公開)、「20世紀少年<最終章> ぼくらの旗」(09年8月29日公開)も話題を呼んだ。完結編のほうは最後の約10分間をマスコミ含め誰にも見せず、物語のオチをひたかくしにするパブリシティであった。
ただ、誰もが唸る名エンディングなら秘密にする必要など無いわけで、論理的に考えれば隠すイコール自信がないんだろうな、と思うのが普通である。だから、少なくとも私の周辺のマスコミ関係者は冷ややかな目で見ていた。
むしろ、そんな中途半端にエンディングに凝るくらいであれば、いっそエーケービーよろしく48種類くらい違った結末を用意したらいい。そして、その全部を見た人に0巻をプレゼントする、と。
ゲーム「ラブプラス」の大ヒット
それにしても「20世紀少年」をはじめ、2009年の興収ランキングをみると、例によって漫画原作ものが多い。それらが映画市場をも牽引している印象である。
そんな中、映画以外で09年の注目作品といえば「ラブプラス」(09年9月3日発売)なる恋愛シミュレーションゲームである。3人のヒロインのうち誰かと無事恋人になった後も永遠に「恋愛ライフ」を楽しめるという画期的なアイデアが広く受け入れられた。これをやると、こちら側に戻れなくなるという副作用がもれなくついてくる。
画面の中の女の子と結婚式をあげたり、クリスマスにケーキを買って一緒に食べたりする熱狂的なファンも出るほどで、さすがはこのジャンルのパイオニア、KONAMI謹製といったところである。
しかしながら「恋愛シミュレーション」というからには、お相手に飽きてからの修羅場も再現してほしいところ。2週間ほうっておくと他のプレイヤーのDSに移動していなくなっちゃうとか、DSの機械をフォーマットする自爆テロをおこすとか、気性の激しいキャラクターも次回作には入れてほしい。
それはともかくこのゲームは、DSを縦にする変則的なプレイスタイルで知られている。電車の中でにんまり笑いながらそうした持ち方をしている男性がいれば、それは「ラブプラス」の人である。愛好者が周りに一目でバレるという、メーカーの良心的な配慮といえる。
そんなコナミの恋愛シミュレーションゲームといえば、「ときめきメモリアル」がかつて実写映画になったのを思い出す。関係者はそろそろ「ラブプラス」映画化も考えている頃かもしれないが、あのときの失敗を生かし、映画版はゲームの世界観を生かしたものにしてほしい。
ヒロインは3人。それこそ最後の10分間だけ違うバージョンの3種類を用意。それらはランダムで上映されるので、目当ての女の子との結末を見たい場合、運が悪いと何館もはしごすることになる。日本全国の映画館をラブプラス行脚。観光業界に与える影響も絶大である。
なにしろ撮影に必要なのは一本分の労力のみで、結末の編集だけ3種類作れば売り上げは3倍以上。鳩山首相も納得の省エネ友愛商法である。民主党は今からでも「ラブプラス」特需をマニフェストに入れるべきであろう。
なりふりかまわぬ商売を始めた映画界
と、こんな冗談を書くのも、最近は似たような商売が目立つからである。
あの「ハリーポッター」シリーズだって、完結編はわざわざ二つに分けて少しでも儲けようと頑張っているし、「のだめカンタービレ 最終楽章」(2009年12月19日公開)もそれに倣った。しかし、そういうやり方もやりすぎればいつか嫌われる。
だいたい、前編などといって未完の映画に金を出させようという発想が気に入らない。そんなものはつなぎに過ぎないのだから、入場料一律100円で見せたらいいのだ。
これからは三部作の2部までは一律100円。その代わり完結編は10000円。テレビドラマは壮大な予告編でございました、最終回は劇場へどうぞ──なんて商売が許されるのだから、この程度はなんてことあるまい。
前置きが長くなってしまったので、具体的な総括は次回に続く。