『毒戦 BELIEVER』80点(100点満点中)
監督:イ・ヘヨン 出演:チョ・ジヌン リュ・ジュンヨル
≪韓国のリメイク技術の高さを改めて感じさせられる≫
中国や韓国は、映画発信に力を入れており、質の高い作品を近年次々と製作している。
とはいえ、漫画や小説の文化的ストックが豊富な日本に比べるとそうした映画業界以外、つまり原作の質量が劣るといわれている。
中国では豊富な資金をもとに必死に国内で原作者を育てているが、韓国の場合は日本を含め世界中にアンテナを張って良質な原作を探している。
各国の映画のリメイクを積極的に手掛けているのもその一環だ。そして、そうした経験を積むごとに、どんどんリメイクづくりが上手になっているのがよくわかる。香港の巨匠ジョニー・トーが監督を務めた『ドラッグ・ウォー 毒戦』をリメイクした『毒戦 BELIEVER』も見事な出来で、一見の価値がある。
麻薬密売組織のリーダーだが、その正体は性別さえ不明なイ先生。長年その足取りを追ってきた麻薬取締局のウォンホ刑事(チョ・ジヌン)は、あるときついに手がかりをつかむ。それは、麻薬製造工場の爆発事故で唯一生き残ったラク(リュ・ジュンヨル)という若者。組織に捨てられた彼を協力者として、ウォンホ刑事はついに潜入捜査で組織に入り込むことに成功する。
一度目は、何も考えず息詰まる緊張感を味わうのがおすすめだ。潜入捜査が果たして成功するのか、あるいはいつばれるのか。ラクの機転で何度もピンチを救われるウォンホだが、その捜査活動はまさに薄氷をわたるかのよう。はたしてどうイ先生に迫るのか、ドキドキワクワクで楽しめるだろう。
そんな皆さんはきっと無防備な体制で"あの"シーンをみて、大きな衝撃を受け、混乱することになる。
もしも映画を気に入ったなら、もう一度最初から確認してみるとよいだろう。
ファーストシーンから、それに連なるラストシーンまで、綿密に伏線が張られ、ヒントがばらまかれているのがわかるはずだ。注意深く見れば、ラストシーンでいったい何が起きたのかも、きっとわかるだろう。だから、あえてここで私が正解を書くことはしない。
これぞミステリ、そしてハードボイルド。監督は香港版と差をつけるためウェットなタッチにしたというが、やはりこれはハードボイルドの魅力だ。余計な説明はしない。大人ならわかるだろうという、知的な遊戯である。悪党にも魅力があり、最後はきっちりとケリをつける。このジャンルを好きな人なら、実に見ごたえがある。
個人的には、本筋とは離れるが、地味系の女刑事が地味な顔のままセクシーな服を着て潜入捜査に協力したり、真逆なイケてる女子と格闘アクションを繰り広げるギャップがいかにも韓国らしい魅力にあふれていて気に入った。
韓国ではR15指定(日本はPG12)ながら大ヒットとなり、世界中にもよく売れたというがそれもよくわかる出来のよさ。国籍問わず、こういう男臭い映画に魅力を感じる層は確実にいる。
とはいえ、本作の場合は意外にも女性ウケもいいというが、こうしたハードボイルドなカッコいい男が現実に少ない以上、ある種のファンタジーとして彼女たちがうっとりするのも無理なきことかもしれない。
生々しいバイオレンスシーンもあるものの、そういうものが平気な大人のカップルにもいいかなと思う次第である。