『ジョン・ウィック:パラベラム』70点(100点満点中)
監督:チャド・スタエルスキ 出演:キアヌ・リーヴス ハル・ベリー
≪大風呂敷を広げた世界観が楽しい≫
代表作『マトリックス』の続編が発表され、50代における最大のはまり役を演じたシリーズ最新作『ジョン・ウィック:パラベラム』も佳境のキアヌ・リーヴス。
香川旅行のためお忍びで先行来日した結果、台風を避けられジャパンプレミアにも出席できたなど、相変わらずの強運。乗りに乗っている印象である。
※これ以降の文章には前作までのネタバレが含まれますので、『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017)を未鑑賞の方はご注意ください。
裏社会の"安全地帯"コンチネンタルホテル内での殺人を犯した殺し屋のジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)は、1400万ドルの賞金首となってしまう。街じゅうの殺し屋からの断続的な攻撃を退けながら逃げる彼は、育ての親ことディレクター(アンジェリカ・ヒューストン)の元に身を寄せるが……。
家族とお犬様を奪った宿敵をぶち殺すため、鬼のような強さで犯罪組織を壊滅させたジョン・ウィック。だが、殺し屋業界の商工会議所ことコンチネンタルホテル内に逃げ込んだラスボスをぶち殺してしまったがために、全業界を敵に回すことになってしまった。
長年のよしみでなんとか1時間の猶予をもらったが、はたして彼はNYを脱出できるのか。そんな大ピンチで終わった前作直後から物語は始まる。
このロスタイムで彼はどこに行き、何をするのか。すでに体力は消耗し、敵は無尽蔵にやってくる。あまりにも不利すぎるサバイバル劇の開幕である。
このオープニングアクションの盛り上がりがすごい。そりゃそうだ。なんたって前作のクライマックスを引き継いでいるのだから。アクションシークエンス演出を盛り上げるために必要な、主人公への共感、物語上の必然性などを最初っから備えているのだからこれは強い。
世界奇人変人レベルの巨人と図書館で戦ったりと、外連味に外連味をまぶした重ね食べ状態でのっけから盛り上がる。
しかし、これほどの見せ場を最初に配置しながらそれで打ち止めにならず、それどころかこのレベルでも本作のアクションシーンにおいては前菜程度。
そんなこの映画の中で個人的にお勧めなのが、オスカー女優のハル・ベリーが、戦闘犬3頭を従えるモンスター使いぶりを、無駄に高い演技力で演じる場面だ。
個人戦闘が売りだったこのシリーズ、3作目にして1vs集団戦闘に手腕を発揮したチャド・スタエルスキ監督。彼は、犬3頭を加えることで、数メートル程度の上下空間を存分にに使える演出的自由を得た。
犬は人間どころじゃないジャンプ力やスピード、躊躇ない直線的な動きを持っている。障害物は飛び越え、壁くらい駆け上る。早い。目にも止まらない。
これが実に新鮮、そしてかっこいい。これなら犬公方ことジョン・ウィックも大満足。連携もばっちりである。映画好きにとっては、キャット・ウーマンが犬を操るシャレもまた笑えるであろう。
笑えるといえばこのシリーズは、独特の世界観をクスクス笑いながら楽しむのもありである。
今回はその設定がどんどんエスカレートし、ホテルを拠点に仕事をすすめる殺し屋業界の全世界的スケールが垣間見える。
殺し屋たちは各地のホテルに集まり、オー人事オー人事と仕事を紹介され、フリードリンクでくつろいでいる。その姿はそこらへんに林立するコワーキングスペースそのもの。きっと時間貸し会議室では人事部向けセミナーとかもしょっちゅう開かれているのだろうと、わけのわからない想像をしながら奥行きを楽しむことができる。
さらに終盤には、その妙な秩序感が崩れゆく恐怖も味わえる。いわば終末ホラー的な面白さである。本作にはそんなわけで、たくさんの魅力が詰まっている。
キアヌ・リーブス自身もみっちり4か月ほど柔術のトレーニングをして、アクション自慢の脇役やスタントマンたちと共演を楽しんだようで、年齢的な限界もさほど見せず「マトリックス」続編への期待も高まるばかり。
そろそろまとめとなるが、『ジョン・ウィック:パラベラム』、じつによくできている。キアヌ氏には、日本のおいしいラーメンで精をつけて、今後もぜひ頑張ってほしいと思う。