『ライリー・ノース 復讐の女神』60点(100点満点中)
監督:ピエール・モレル 出演:ジェニファー・ガーナー ジョン・オーティス
≪女性推しの流行も終わりつつあるが≫
今から10年ほど前、『96時間』(2008)という映画が予想外に大ヒットした。……といってもそれは世間一般の話で、当サイトでは公開前から85点の5つ星をつけていたため、いち早く読んでいた情報強者はその後の状況を的確に予想し、株か何かで大儲けして億万長者になったことだろう。
それはともかく、あの映画はささやかながらもその後のアクション映画業界を変えた、エポックメイキングな作品となったわけだ。
それは、60になろうかというオッサンを主人公にしながらも、優秀な撮影監督が動きの足りなさをカバーし、リアリティを感じさせる映像を撮り、それを邪魔せぬシンプルなストーリーに徹すれば、十二分に評価されるハードなアクション映画が作れるという、画期的な証明でもあった。
監督のピエール・モレルは、それまでさまざまなアクション作品で色気のある映像を撮ってきた若手の撮影監督としてしられた人物で、自分の長所を存分に生かすためにはどうするか、おそらく考え抜いて上記のようなフォーマットを編み出した。その結果が『96時間』のヒットと、主演リーアム・ニーソンのアクションスターとしての再ブレイクであった。
よき妻であり母だったライリー・ノース(ジェニファー・ガーナー)は、麻薬組織に襲われ家族を奪われてしまう。生き残った彼女は5年間にわたって修練を積み、とてつもない戦闘力を身につけた上で組織への復讐を開始する。
最近は、スター・ウォーズの主人公が女性であることからもわかるとおり、とくにアメリカ映画界では女性推しのトレンドが長く続いている。
そこでピエール・モレル監督は『96時間』の成功体験を、女性に代えて試してみることにした。『ライリー・ノース 復讐の女神』は、めっぽう強い女性が悪を容赦なくなぎ倒す、痛快な復讐劇である。
一般的なアクション映画と違うのは、いうまでもなく復讐に燃えるのが女性、それも熟女のお母ちゃんというところだ。
演じるジェニファー・ガーナーは現在47歳。リーアム・ニーソンのように過去にアクション映画の経験もあるしもともとバレエをたしなむなど身体能力は高い女優だが、近年は決してそんなイメージではなかった。
そんな彼女を、こうしたバリバリの格闘アクションの主演に据える。撮影と映像作りに絶対の自信があるから、ジャッキー・チェンにも負けないスパルタンな見せ場を作ることができる。ジャッキーやトニー・ジャーなら驚きもしないが、47歳の熟女がやれば驚く。そうした世間の反応をしりつくしたこの監督らしい企画である。
しかも彼女はスタイルもいいし、もともとの運動神経や柔軟性もある。それに年相応の母性が加わる。弱きもののために命を懸けて戦い、底辺での暮らしを余儀なくされる名もなき人々のヒーローとなる後半の展開に説得力を与えている。20代やそこらの美少女女優なんかじゃ、こうはいかない。ピエール・モレル監督はまさに中年俳優の再生職人。オッサンや熟女にとって救いの神である。
こうした映画を似たような世代が見れば、「おお、デアデビルのあの女優もこんなに年を取ったか、でもすごい動きじゃないか、俺もまだまだやれるはずだ」と勇気がもらえる。
実際には、どう考えてもお前には無理だろと誰もが思うところだが、映画は夢を見せるのだからそれでいいのである。
社会的に弱い立場の人たちにやさしい視点を持つのもこの監督の特徴。やはり正義の味方には弱きを助け、強きをくじく物語がよく似合う。いまどきは現実がその逆なのだからなおさらだ。
あらゆる意味で二番三番煎じは否めないし、アクションにもとりたてて特徴があるわけではないものの、気軽に暇つぶしをするには適した一本。とくに40代以上のおっさん世代に向いた作品といえるだろう。