『ラスト・ムービースター』70点(100点満点中)
監督:アダム・リフキン 出演:バート・レイノルズ アリエル・ウィンター
≪中高年を泣かせる≫
バート・レイノルズは70年代から80年代にかけて活躍した映画スターで、一目見たら忘れない濃厚な顔貌から、日本でも大人気だった。
18年に亡くなるまで、最近も細々と映画やテレビに出ていたのだが、正直なところ、アクションスターからのジョブチェンジをうまく果たすことができなかったと言わざるを得ない。30年代生まれにはクリント・イーストウッドやロバート・レッドフォードなど、年齢とともにキャリアの幅を広げてきたスターが何人もいるが、バート・レイノルズはその点では不遇であった。
今は落ちぶれた映画スターのヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から招待状が届く。功労賞の受賞のお知らせだという。歴代受賞者をみると、クリント・イーストウッドやロバート・デ・ニーロなどそうそうたる顔ぶれが並ぶ。ヴィックは友人のすすめもあって飛行機に乗って会場に行くが、じつはこの映画祭、有名映画祭とうりふたつの名前の、たんなる田舎のファン上映会だった。
冒頭に紹介したように、バート・レイノルズという人は一世風靡しながら世代を超えられなかったとみられている「最後の映画スター」であり、この映画はその共通認識を大前提に書かれた脚本のドラマである。虚実織り交ぜた、つまり主人公の気持ちや葛藤などはほとんど事実なんじゃないかと思わせるあたりがせつない。往年のファンにはそんな風に感じられる一本。
主人公は黄金期の映画業界を体験しているので、彼が認識する「スターの移動」「宿泊」「食事」「映画祭会場」と実際のあまりもの違いなど、前半は鉄板の笑いをちりばめ楽しく見ることができる。
彼を招く田舎町のファンは、スマホやSNSこそ駆使してはいるが、基本的には80年代のまま止まってるんじゃないかというような素朴な人たちで、はたから見れば老いぼれたムービースターと似た者同士にも感じられる。決して悪気はない連中だとわかるし、歓迎ぶりもあたたかい。
だが主人公は、騙されたような思いと誇りを傷つけられた気持ちと、自分の愚かさで心がいっぱい。想像以上のとんでもないふるまいで応えることになる。不穏なムードと先が読めそうで読めない展開が、後半には待ち受けている。
作品のメインテーマとしては、「ちょっとだけかもしれないが、人は変われる」というもの。それが大勢に幸福をもたらすだろうと感じさせる脚本がうまい。
かつての大スターで、誰も見たことのないきらびやかな世界を謳歌し、今も金はある。だが、そんな男でも幸福ではないことが、この映画はスター視点なので実感を持って伝えられる。
いったい幸せとは何なのだろうか。ひとは全盛期を過ぎたらあのときのような幸福は二度と得られないのか。だとしたら、若くして成功を得ることは、かならずしもその成功に応じた幸福を、トータルで得られるとは限らないのか。
多くの人が感じ、直面している問題かもしれない。
成功者として生きてきた主人公が、自分がもしもう一度人生をやれるなら……と語るクライマックスのセリフは、彼が耐えてきた悩みと苦しみのあまりもの深さを感じさせ、涙なしでは見ることができない。バート・レイノルズ本人の境遇も絶妙にシンクロし、迫真の演技である。
私はこの映画を、人生の途中にいる、悩めるすべての人に見てほしいと思う。全盛期を過ぎたと感じて、それに悩んでいる人にだ。
正しい道を行けばいい、後からじゃ遅いのだと思わせてくれる良作で、中高年の心にもきっとひびくだろうと思う。