『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』60点(100点満点中)
監督:八木竜一 声の出演:佐藤健 有村架純

≪一見さんはお断り≫

私のようなファミコン第一世代にとって、「ドラゴンクエスト」は特別な存在と言っていい。家庭用ゲーム機の黎明期、今と比べれば赤ちゃんのようなアクション系ゲームしかなかった時代に、ドラクエが切り開いたユーザフレンドリィなコンピュータRPGの世界は「ドラクエ前・後」といってもいほどの革命であった。

とくにその数年前からのゲームブック、TRPGブームに乗っていた当時の少年少女たちにとって、「ポートピア連続殺人事件」と本作は、ついにファミコンもここまで来たかと感じさせるエポックメイキングといえた。CGアニメ映画版『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は、はたしてあの衝撃にどこまで迫れるか。

悪の魔法使いゲマ(声:吉田鋼太郎)により、母マーサを奪われた少年リュカ(声:佐藤健)は、凄腕の戦士である父パパス(声:山田孝之)とともに旅を続けていた。だがゲマの卑怯な戦法により父は倒れ、リュカも奴隷として連れ去られてしまう。そして月日がたち、たくましく成長したリュカは、親友ヘンリーとともに立ち上がる時がやってきた。

移動、やる事を発見、アイテムゲット、移動、という初心者一本道RPGらしさを残した脚本の、CGアニメ版ドラゴンクエストである。

山崎貴総監督は当初映画化に難色を示したが、あるアイデアを思いついて引き受けたという。そのアイデアはなるほど、なかなか面白いものだが、これを採用したことからこの映画は、大胆にも子供向けの客層を切り捨てることになった。

そう、『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は私のようなリアルタイムドラクエ1世代から、若くとも中高生くらいまでを対象にした映画作品である。くれぐれも、ゲームをプレイしたことのない人はNGである。

この監督のアイデアは、より有効に作用させるなら、映像面であの箇所とのメリハリをつける必要があったのだが、技術力の限界かそこまでできず。少々から回りした印象が残る。

『ALWAYS』シリーズでブレイクを果たした山崎監督にとっては、キャリア上、一度はこれをやらねばならなかったのだろうと想像するが、なにもドラクエでなくてもね、との感想が残る。監督のキャリアとは無関係なドラクエファンは無用に振り回される事になるわけで、気の毒な感じがする。

同時期にピクサー作品が上映され、多くの観客が両方見ることになろうが、それも本作の評価に不利に作用するだろう。目指す方向性が違うとか、そういうコンセプトではどうにもならないほどの技術力の差が、CGアニメの世界でははっきりとわかる。中々つらいところだ。

物語のペースとなるのは5作目の「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」。この作品はモンスターを仲間にできたり、人生イベント(結婚相手を選ぶ)や、世代を超えた壮大なストーリーが特徴の意欲作で、この後のゲームソフトにもその多くが真似された。山崎監督は、これなら映画にしやすいと思ったらしい。ビアンカとフローラの造形は、相当力を入れたと思われ、どちらもなかなか魅力的である。さて、どちらを選びましょうか。答えは劇場で。

この映画は、ゲームをやりこんでいることが鑑賞の前提となっているような荒っぽい編集がなされており、様々な省略箇所を自分のゲーム体験で埋めなくてはならない。

ゲームと同等の感動を得るのは、その意味では難しいだろう。色々と途上の印象が強い作品だが、ある程度のヒットを記録すれば、また似たような企画が通り、多少の進化を見られることになる。日本のCGアニメは、まだまだファンの応援が必要なジャンルである。



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