『今日も嫌がらせ弁当』70点(100点満点中)
監督:塚本連平 出演:篠原涼子 芳根京子

≪美人すぎる母子≫

いつだったか、どこかのお母さんが気難しくなった思春期の娘との会話代わりに、嫌がらせのようにデコ弁を作り続け、いよいよ卒業を迎えました、とのネットニュースを読んだ記憶がある。

読んだ次の瞬間にはすっかり忘れていたが、『今日も嫌がらせ弁当』の映画化の話を聞いて、なんとなく思い出した。そんな程度の事前知識で私は本作の試写会に出向くことになった。

シングルマザーの持丸かおり(篠原涼子)は、最近反抗期なのかすっかり口を利かなくなった高校生の娘、双葉(芳根京子)に対し、かわいすぎるキャラ弁を作ることで対抗し始める。開けるのも恥ずかしいその弁当を、それでも完食して帰ってくる双葉とカオリの、奇妙な無言のコミュニケーションがこうして始まった。

なるほど、あのときはへぇ、としか感じず対して真面目にニュースを読んでもいなかったが、このようなバックストーリーがあったのか。これはブログが大人気になり、映画にもなるわけだ。じつにいい話、である。

一般試写会だったので、お客さんはおそらくこのお母さんかそれ以上の年代の女性がほとんどであったが、あちこちですすり泣きが聞こえた。映画はいろいろと至らなく、不器用な、要するに素人むけのつくりだが、確かに泣ける。彼女たちにはこれで十分なのであろう。帰りのエレベーターでは満足の声がきかれた。

なにしろ家事やお弁当作りは大変な日課である。具合が悪かろうと、雨が降ろうと、買い物を忘れていようと、勝手に休むわけにはいかない。これはやったものでないと、なかなか苦労がわからないだろう。

だが、その割に彼女たちは報われない。まずいだの嫌いだの言われながら、割の合わない労働を続けている。考えてみれば、そんな彼女たちを迷いなく肯定する、こうした物語もあってしかるべきだ。

母子を演じる篠原涼子も芳根京子もコメディが抜群にうまく、彼女らをキャスティングできた時点で本作の成功は決まったようなものであった。二人ともとても可愛らしく、好感が持てる。いかに観客を共感させるかがすべてのような映画だから、簡単なようで難しい役ともいえる。

それにしても、篠原はうざすぎるオバハン役を、抜群の間で演じ、爆笑を誘う。がさつな母という役柄上、ノーメイクに近い場面も多いが、気を抜くと設定より10歳は若返ってしまうのが玉に瑕だ。演技力は十分だが、何気なく微笑んだだけで美人が顔を出す。美貌を隠すのもなかなか難しい。

一方、芳根京子も、これまでで一番のはまり役ではないか。この物語の中でもっとも泣かせる要素は、彼女の変化、ギャップである。その点をよくわかっているのだろう。若いのに上手な役者だ。

芳根京子は笑わない顔に魅力があるタイプで、この映画ではそこが生きた。むすっとしてるが、友達といるときだけは気が緩んでいる。そこがうまい。

その友達役にはこれまたリアリズムのかけらもないような美少女ばかりを揃えているが、今回は正解だ。そうしないと目立ちすぎるほど、この女優は顔立ちが綺麗すぎる。劇中、彼女と男子生徒を取り合う恋のライバルが出てくるが、その子の顔面は最後までボカしてはっきりうつさない。そうしないと説得力が生まれない。あまりにも美人すぎる母子では、観客の共感度も下がる。まさに苦肉の演出である。

そんな、見た目が上等すぎる母子の温泉入浴シーンという、ほとんどいないであろう私のようなエロ男性層への配慮を忘れていないあたりも好感が持てる。

ストーリーはわかりやすいしギャグも切れているが、起承転結が長すぎるきらいもある。もう少し縮めるとなお良くなりそうだが。

また、結末の後はどうなったのか。その後を入れるサービス精神があっても良いように思う。だいたいブログの映画化(間にエッセイ出版を挟んではいるが)というのはいつも眉唾で、どこまで真実味があるのかつい疑いの目で見てしまう。フィクションならそれはそれでいいが、実話度というのは誰もが気になる部分ではないだろうか。

とはいえ、苦労する女性に寄り添うこうしたフィルムがあるのはいいと思うし、目的は完ぺきに果たしている。母親層(年齢は問わない)という、対象が比較的わかりやすい映画だから、そこだけ確認して見に行けば失敗はしないだろう。



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