「ハッパGoGo 大統領極秘指令」85点(100点満点中)
監督:デニー・ブレックナー 出演:デニー・ブレックナー タルマ・フリードレル
≪「世界で最も貧しい大統領」本人が出演≫
近年では、世界中でマリファナ解禁の主張がみられるようになっている。やれ中毒性がないとかたばこより安全とか、医療用なら有用とか、活発な議論がなされている。わが国でも総理大臣のやんちゃな奥様がその一人として知られるが、彼女のようにこの問題に興味がある人にはぜひ「ハッパGoGo 大統領極秘指令」を見てほしい。
世界で初めて大麻を合法化した南米ウルグアイ。しかし薬局を営むアルフレド(デニー・ブレックナー)は、密売業者から仕入れたために牢屋入りの憂き目にあう。その後、合法化したものの深刻なマリファナ不足に陥った国は、ホセ・ムヒカ大統領(本人)の命によりアルフレドを釈放、オバマ大統領(本人)との首脳会談に先立って渡米し、米国内で供給ルートを探すよう言いつける。
低予算ウルグアイ映画というだけでも日本では貴重だが、来日時に感動的なスピーチを行い大人気となったホセ・ムヒカが本人役メインキャストで出演している点でも前代未聞。内容も切れ味鋭い社会批判のメッセージが込められたコメディーで、見逃せない逸品となっている。
あらすじからわかるように、本来は麻薬生産国であるはずの南米国家が、大消費地であるアメリカに仕入れに行く逆転構造が笑いのツボとなっている。いまトランプ大統領は壁をこしらえてまで麻薬流入を止めようとしているが、あろうことかその国へ生産国の人間が仕入れに行く設定が笑いを呼ぶ。
アイアンマンほか、アメリカを象徴するエンタメ企業ディズニーのキャラクターに、主人公らがとぼけた顔で麻薬売り場を聞いて回る展開は、あまりのドギツさに観客も仰天することだろう。
いったいどこまでが役者やエキストラによる芝居で、どこからがゲリラ撮影なのか。街中のシーンでモザイク修正が多発するため、私はこの点を日本の配給関係者に聞いてみたが、製作陣がどうしても教えてくれないのだという。おそらく、米国内のシーンのかなりの部分が無許可撮影なのではないか。これほどブラックなコメディーは、とてもじゃないがハリウッドでは作れまい。
そしてここからが当サイトの真骨頂たる大人の解釈、なのだが、当然ながらこういう映画は表面的なお笑い部分はあくまでエンタメ。作り手の真の思いはその裏に隠されている。
ではそれは何かといえば、アメリカが自由の美名のもと、世界中に広めた貧困輸出。別名グローバリズムへの痛烈な批判であろう。
ある作物の生産国だというのに、自国民が消費する分が不足し、それを補うためにあろうことかその作物を買っている金持ち国に、貴重な外貨をもって仕入れに行く。
コーヒーや穀物などの例を挙げるまでもない。人類の近代史の中で、幾度となく繰り返されてきたこれは国家間の搾取の構図そのものである。これをこの映画はコメディーの形で、それもアメリカを巻き込んだ笑いによってチクチク刺しまくっているわけである。
しかもそれを、貧困国の、それも元大統領みずからが出張った映画でやってのけた点に、監督らのとてつもない本気と意地を感じざるを得ない。これを米国で上映することが、どれほどウルグアイ国民にとって大きな意味を持つか、想像できるというものだ。
しかも、ミニーマウスやウッディ(『トイストーリー4』絶賛上映中だ)をこれほどいじりたおされても、アメリカはこの映画に文句ひとつ言うことなどできない。
なにしろ本作の影の主演はあのホセ・ムヒカだ。軍事政権と命がけで戦ってきた左翼のガチ闘士で、これまで6発も被弾しながら生き延びてきた不死身の男。何度投獄されても脱獄し、大衆の支持を得て大統領にまでなった。
彼が行った世界初のマリファナ合法化は、どんなに正攻法で取り締まっても麻薬マフィアを壊滅できないから逆転の発想でやった苦肉の策だが、まっとうに生きる国民の命を守るためにしたことだとの信頼が国民との間にあったからこそできたことだろう。
彼自身は財産は持たず、今も小さなあばら家で暮らしている。そんな生き様により、いまや彼は、全世界のグローバリズムの被害者から尊敬を集め、支持されている。この"世界最強の持たざる者"の前では、いかにハリウッドといえど、ぐうの音も出まい。
エンドロールのあとには、この元大統領と、監督も務めた主演デニー・ブレックナーらの貴重な会話の様子が映される。このおまけのような映像は、とてもとても感動的で、とくに私たちのような、グローバリズムの権化のような政権に痛めつけられている国民の心にはガツンとくる素晴らしいシーンとなっている。くれぐれも、見逃さぬよう。