「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」70点(100点満点中)
監督:三池崇史 出演:山崎賢人 神木隆之介

奇妙な映画ではあるが

「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」は、実写映画化の発表からはじまり一つ一つビジュアルが発表されるたび、原作ファンの間では不安しか湧きあがらない話題の大型企画である。もっとも、誰が見ても東方仗助の髪型はじめ、静止画で見るとひとつも納得できるものがなかったのだから、それもやむなしであろう。

杜王町で暮らす高校生の東方仗助(山崎賢人)は、母(観月ありさ)と祖父(國村隼)の3人で仲良く暮らしている。あるとき彼の前に甥を名乗る年上の男、空条承太郎(伊勢谷友介)が現れ、仗助がジョセフなる老人の息子であり、自分と同じくジョースターの血統を継ぐものだと伝える。さらに承太郎は仗助のそばに立つ「悪霊のようなもの」の正体を彼に教えるのだった。

断言してもいいが、関係者はきっと当サイトの批評をまんじりともせず待っていることだろう。ここで酷評されるとまた業界内で静かな大騒ぎになって、どこかの試写会にいく度、腫物を触るような目でみられる日々が続くわけだが、幸いなことに今回は蓋を開けてみれば意外にも悪くない。世間ではあれほどネガティブな前評判だったのに、まさに奇妙な映画、である。

とはいえ、この映画は原作未読者にはまず正確な評価はできないだろう。漫画の実写化というのはえてしてそういうものだが、本作は特にそうだ。この映画を未読者が見たら「???」とまではならないにしても、映画に感心して原作を試してみよう、となる人はほとんどおるまい。大前提として「原作→映画」の人のための映画であり、逆向きの矢印はまずない(し、すすめない)。

まずはっきり言って、当初感じるのは、キャラクターにしろ風景にしろ、このビジュアルはやはり相当な違和感があるということだ。仙台をモデルにした原作の杜王町とは全然違うし、というより、どう考えてもカタルーニャの町に日本語の看板と標識を張り付けたようにしか見えない。

東方仗助の髪の毛も承太郎の帽子融合髪も実写でみるとおもちゃみたいだし、衣装デザインも色彩も普通じゃありえないものばかりである。セリフのいいまわしも表情も、どれも単独ではきわめておかしい。

しかし、である。

確かにこの映画の要素はどれもこれもおかしいのだが、全部合わせると絶妙にバランスが取れている。三池崇史監督が言うように、なるほどこれらを日本でやったら珍妙なことになっただろう。

歴史ある建物とまるでなじんでいない日本語の増築部分を加えたちょいとチープな見た目の世界観だから「やれやれだぜ」も「グレートだぜ」もまるで浮いていない。そのうち慣れてくるのだから、まさに三池マジック。

アンジェロを演じる山田孝之や空条承太郎の伊勢谷友介など、雰囲気を出すのが抜群にうまい役者を前半に集中して配置したのも功を奏した。彼らの芝居には「説得力」がある。後半の虹村兄弟編は少々テンポが悪いので、対比するとより前半部のよさが際立っている。おかげで序盤からすっかり観客を引き込み、引っ張ることができている。次回作はもっとポンポン敵を出して、スタンドバトルの見せ場を続けてほしいものだ。

そして何より、三池監督はやはりヤンキーものがうまいのである。役者のすごみ方、負けっぷり、友情、そんなもろもろを嫌みなく描くのが彼はとても上手だ。

前述の二人以外だと山崎賢人はじめ、広瀬康一役の神木隆之介、山岸由花子役の小松菜奈、虹村億泰役の新田真剣佑あたりは役作りに成功している。たとえば主演の山崎賢人は仗助のやさしい面を見事に表現できている。岡田将生の虹村形兆は原作のイメージとは少々異なるが、これはこれでありだろう。なお、この中では個人的には億泰をイチオシとしておきたい。憎めないバカさを描けているし、何より声のイメージがぴったりはまる。

スタンドバトルは、実写でみると予想よりはるかにひかえめな印象で驚かされる。なるほどジョジョ第4部はほとんどアニメなCG前面出しの派手なバトル映像など不要であったということか。たしかにスタンド同士の格闘戦は、おそらく相当なCG技術(というよりブラッシュアップのための時間)がないとイマイチになるだろう。だが、本作のアンジェロ戦のように頭脳戦系のマッチメイクを選んでいけば、この程度のVFX演出でも十分楽しめるものができるわけだ。

なお個人的にはスタープラチナの初登場時、ほんの一瞬だが承太郎本体を防御するシーンをオススメとしてあげておきたい。原作ファンにはあれはしびれるシーンである。もっとも未読者は何とも思わないだろうが……。つまり絵的にはなんてことないが読者にはたまらない興奮、そんな場面がこの映画、とても多いのである。アクア・ネックレスの捕獲シーンとかオラオラとかドラドラとかザ・ワールド発動とか、どれもこれもそういう要素である。既読者歓喜、未読者ぽかーん。

まさに完全に既読者のための実写化。原作ファンが怖いもの見たさで劇場に行って、おおうまいじゃん! テラフォのマイナス分は取り戻したね、と感心する感じになるだろう。もともとジョジョの第四部は万人向け、一見さん向け娯楽大作にはなりえない。このコンセプトで正解だと思う。

なお原作の改変は"ほとんど"行われていない。あえてそう書いておく。それ以上は書かないでおこう。なるほどそうきたか、と原作ファンはきっと思うだろう。

そんなわけで十分楽しめる、原作とはまた違った魅力を持つ上手な実写映画化だったわけだが、最後にここで書いた印象は「第四部こそ至高!」な意見を持つ原作読者の意見ではないことを、皆さんの参考にしてもらいたいのであえて記しておきたい。

私は週刊少年ジャンプ連載中のジョジョをリアルタイムで第一部から読んでいた、年季の入ったジョジョ読者であるが、ファンには申し訳ないのだが第四部についてそれほど高く評価はしていない。

あの当時毎週読んでいた人なら同意してくれると思うが、ジョナサンの物語から始まるDIOとの因縁に決着がつく第三部の最終盤の展開のハイテンションたるや、本当にすさまじいものがあったのである。

それはまさにページをめくる手が震えるような緊張感と衝撃の連続で、とくにヴァニラ・アイス戦以降はもう毎日ジョジョのことしか考えられない、そんな状況であった。

だからあの、パーフェクトなエンディングのあとにやってきた第四部のテンションの低さには、たとえ吉良戦にいたっても没頭するまでには至らなかったのである。今あらためて読み直すと、とても丁寧に作られているしジャンルチェンジもうまくいったと正当な評価こそできるものの、第四部単独ではなくあくまで初期三部作からの数年越しの流れで読んだときにはとてもそんな風には思えなかったのは事実である。

要するに、私には原作のこと第四部に対してはほとんど特別な思い入れがないのであり、当時からの読者とはいえ期待度が低かったがために高めの評価をしている可能性はあるということだ。

いつもどおり、極力正確で公平なな印象を伝えようと努力したが、そのあたりを考慮して読んでいただけると幸いである。

なにより全世界のジョジョファンが、なかなかよく頑張った本作を食わず嫌いにならないよう願いつつ、筆をおくとする。



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