「レイルロード・タイガー」45点(100点満点中)
監督:ディン・シェン 出演:ジャッキー・チェン ファン・ズータオ

池内博之が抗日映画化を食い止める

「レイルロード・タイガー」はいかにも中国国内向けに作られた作品だが、今ではこういう映画にジャッキー・チェン&ジェイシー・チェン親子や元EXOのファン・ズータオ、さらにここでは名前を出せない大スターが普通に出演する。映画業界における中国市場の存在感は増すばかり、である。

1941年の中国。レイルロード・タイガースなるゲリラ組織を率いる鉄道員マー・ユエン(ジャッキー・チェン)。もっとも彼らが普段やっていることといえば、鉄道内から日本軍の物資をくすねるくらい。ところがあるとき仲間の負傷兵から軍事的要衝の鉄道橋爆破を託される。これまでとは次元の異なる命がけの大作戦に、はたしてマーとレイルロード・タイガースはどう挑むのか。

中国ではおなじみのストーリーをアレンジした映画化ということで、まあ言ってしまえば抗日映画、ということになる。

ジャッキーはいつものアドリブ演出を抑えたというが、コミカルな演出で映画は始まる。それがずっと続く。

ところが日本軍と戦うクライマックスだけは、血しぶきが飛びまくり、残酷描写も多数。せきを切ったかのようにそういったものが解禁される。映画のムードはここだけ明らかに異なる。

これはつまり、そこまで抑えに抑えていた悪役・日本軍への恨みと憎しみを一気に開放させるベタな演出なわけで、これが中国で大受けして記録的なヒットとなったと聞くと日本人としてはやはり複雑な思いがする。ああ、中国という国ではいまだにこんな素朴な、言っちゃ悪いが後進国的な愛国映画が受けるんだな、と。

アクションについては、いわゆるジャッキー映画的なスタントやクンフーのようなものは、あるにはあるがサブ的な位置づけに感じられる。

基本的には古典的な列車アクションということで、屋根の上に飛び乗ったりそこで戦ったり移動したりと、クラシックなアイデアのものが主体となる。CGや模型を使った見せ場も多く、ジャッキー映画というよりは普通のエンタメ映画と言った印象だ。

はっきりいってしまうと、かなり時代遅れな感じの、古めかしいアジア映画である。さらに先述した抗日的要素もある。

だが、日本軍将校のヤマグチを演じる池内博之が中々気を吐いていて、本作がB級抗日ムービーに落ちるのをひとり救っている。

「イップ・マン 序章」(2008)での見事な悪役っぷりを見初められて抜擢された彼は、今回は同じ日本軍人ながらもあちらとは違い、コミカルな要素を役柄に付け加えた。

地獄まで追いかけてくるようなターミネーター的役どころながら、極悪非道ではなくマヌケでチャーミングな、どこか憎めないキャラクターを演じている。

池内博之は「イップ・マン 序章」のときも、単なる悪役ではなく武士道精神のような心をもったキャラクターに、と監督に進言したそうである。日本ではこうした、脚本に口を出す役者は少数派だが海外ではよくある。積極的にそうした意見を取り入れる現場も少なくないと聞く。

結局本作でも、彼の演じたキャラクターのお陰で政治的な生々しさが緩和されている。中国の観客にもこのコミカルな登場人物は好評だそうだ。

じっさいこわもての顔貌とパワフルなアクション、それとギャップのあるコミカルな演技は魅力たっぷり。こうしてみると池内博之は香港映画、中国映画でより輝くタイプの才能だったのかもしれない。今後の活躍を期待したい。



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