「フレンチ・ラン」70点(100点満点中)
監督:ジェームズ・ワトキンス 出演:イドリス・エルバ リチャード・マッデン

現実との符号が怖いほど

世間じゃアメリカのトランプ大統領ばかりが話題だが、フランスの大統領選挙もかなりホットな状況である。4つどもえの候補者争いは横並びで全く予測がつかないし、誰が当選するかで欧州の、ひいては世界の未来にも多大な影響を及ぼす。

アメリカからやってきてパリでスリをはたらいている若者マイケル(リチャード・マッデン)。ところが彼が置き引きしたバッグには、政党のビルの爆破を狙った爆弾が入っていた。すんでのところで爆死は免れたものの、CIAのブライアー捜査官(イドリス・エルバ)にマイケルは濡れ衣で逮捕されてしまう。

さて、そんな仏大統領選を前にぜひ見てほしいのがこの「フレンチ・ラン」。一見ごく普通のサスペンスアクションだが、わざわざ紹介するには理由がある。それは、この映画が偶然とは思えないほど色々と未来を言い当てているからだ。

たとえばこの映画の最初に出てくる爆破テロの実行犯は、オレオレ詐欺の出し子のようなもので、犯行グループ本体に直結しない、外部からスカウトされた末端の人間だ。しかも彼女は見た目がきれいな若い女性であり、自分が大量殺人鬼になろうとは夢にも思っていない。

これは、まさに先日暗殺された金正男殺害事件の実行犯そのものではないか。むろん、例の女が末端なのか工作員なのかは現時点では明らかではない。ただ、表向きに喧伝されたストーリーをこの映画が預言していたのは事実である。

更に本作のストーリーは、革命記念日にテロを起こそうという恐ろしい話なのだが、なんとフランス本国での映画公開翌日であるまさにその革命記念日。南部のニースで花火見物客を狙ったテロ事件が発生、84人が犠牲となった。映画とのあまりの類似性にフランス国内は震撼した。

さらに映画の中のテロリストは極右政党、おそらく国民戦線をモデルとしたその本部ビルを標的とするが、いまや国民戦線の党首マリーヌ・ル・ペンは大統領選の有力候補にまで台頭した。

ここまでくると、映画というものも馬鹿にはできない。こういう作品は、とりあえず見ておいて損はないというのが私の考え方だ。

また、本作の時代性豊かな視点を一つ指摘しておきたい。それは、極右と極左の対立を仕組むものがいると看破している点である。

いま世界中で極右的なものがもてはやされつつあるわけだが、それは彼らがグローバリズムと対決する正義のヒーロー、とのストーリーを人々に信じさせた結果である。愛国心を煽るにはどうするか、それがいかに大衆を思うがままに操作する道具となるか。

かつてナチスのゲーリングはそれを熟知しており「国民は常に指導者の意のままになる」との言葉を残しているが、本作も同じようなことを示唆している。まさに今見ておくにふさわしい視点といえる。

ところで主人公マイケルの特技スリとは、ターゲットの目をよそにむけ、そのスキに奪い取る技術である。

この映画が、わざわざそういう主人公を設定したことにはちゃんと理由があるはずだ。

そういう視点から「フレンチ・ラン」をみると、案の定、まさにそのスリの仕組みが重層構造のごとく何度も繰り返し提示されている。それは今まさに、世界各国で同じことを、偉い人たちがやっているよと、そういうメッセージにもなっているのである。

お気楽なエンタメ作にしてこうしたエスプリを感じさせる。フランスの映画というのも、なかなか洒落たことをする。

 
ポピュリズムと欧州動乱 フランスはEU崩壊の引き金を引くのか (講談社+α新書)
なかなかタイムリーな解説本。


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