「T2 トレインスポッティング」50点(100点満点中)
監督:ダニー・ボイル 出演:ユアン・マクレガー ユエン・ブレムナー

ダメ若者がダメ中年になった

前作「トレインスポッティング」は、当時オサレ人が集まる渋谷ミニシアターの中心だったシネマライズで連続33週ロングランの最高記録を叩き出した大ヒット作。「T2 トレインスポッティング」は、それから現実と同じ約20年が過ぎた設定の、正当なる続編である。

麻薬の売買で得た大金を持ち逃げしたレントン(ユアン・マクレガー)が20年ぶりに故郷スコットランドのエディンバラに戻ってきた。悪友4人組の中で、レントンがその人柄の良さから唯一深い友情を感じていたスパッド(ユエン・ブレムナー)を訪ねると、驚くべきことに彼は今まさに自殺を図ろうとしていた。

前作には、ヘロインに溺れるダメ若者たちが、それでもあがきながら停滞感を打ち破る痛快さと、ほのかな希望を鑑賞後に残すさわやかな青春ドラマの一面があった。

だから私は、あの4人とくにレントンのその後が、これほど希望がなく生々しいものとして描かれていることにまずはショックを受けた。と同時に、2017年というこの不穏な時代でなければ続きを出せなかったのであろうダニー・ボイル監督の真意と言うものに深く興味を覚えた。

これはスコットランドのお話だが、そもそもイギリスじたい、今は先行き不透明で暗い情勢下にある。つまりブレグジットでEUを抜けたのは良いが、その副作用の大きさに今更気づき、ビビっている状況といえる。EU残留を望んでいたスコットランドの人々は複雑な思いだろう。一度は否定された独立投票熱も再燃している。

そうした大事件を抜きにしても、この20年間で格差は広がり、格差の固定化も起こり、つまり世の中はさらに悪くなった。結局4人はその濁流を泳ぎ切れず、下へ下へと流されながらもいまだその波の中であがき、もがいている。

こうしたドラマを見ているといたたまれない気持ちになってくる。きっと前作とキャラクターたちの熱烈なファンほどそう思うだろう。

だが、中には相変わらずのダメっぷりをギャグだと感じ、笑いながらスタイリッシュな映像と音楽に酔うことができる人もいるはずだ。そういう人は要するに勝ち組なのであり、この20年間で4人組とは比較にならないまともな成長を遂げた人たちである。

「T2 トレインスポッティング」は、そういうリア充たちが「あいかわらずこいつらバカやってんな、でもまあかっこいいな」と高い位置から見物し、ああスッキリしたねと帰り道にバーでいい酒を飲んで帰る、そういう楽しみ方をするべき映画である。

間違っても4人と似たような境遇の負け組層の人たちにはすすめられないし、見ないほうが無難だ。でないと前作以上に救いのない、ダウナームービーとなってしまう。監督はそういう意図で作ったわけではないだろうが、きっとそうなる。そういう人たちは、ここは無理せず「わたしは、ダニエル・ブレイク」に行ったほうがよい。

逆に余裕のある皆さんは、わざわざ90年代のスタイリッシュムービー風に演出したと思われる、相変わらずのダニー・ボイルの見事なテクニックを堪能しに映画館へどうぞ。



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