「ラ・ラ・ランド」55点(100点満点中)
監督:デイミアン・チャゼル 出演:ライアン・ゴズリング エマ・ストーン

一般人の感覚とズレた業界人が過大評価

アマチュアの映画ファンは「これはボクのために作られた映画だ!」と感じた時、盲目的なまでに絶賛しがちである。我々プロはそういう映画評は見ればすぐにわかるし、自分が書くときはそうならないよう、気に入った作品ほど距離を置いて冷静にみつめる癖がついている。

しかし「ラ・ラ・ランド」は一部、いやそうとうな数のプロたちのそうした習性を突き破ってしまった点で、特筆すべき作品といえるだろう。

女優志望のウェイトレス、ミア(エマ・ストーン)は、ジャズバーでピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。決して素敵な出会い、ではなかったが彼らは再会し、夢を追う過程の中で互いの距離を縮めてゆく。

ツイッターその他で私は本作を平凡と評したが、他の人たちは思っていてもなかなかそれを言い出す勇気はなかったことだろう。それくらい映画業界における「ラ・ラ・ランド」狂想曲は凄まじかったし、物言う評論家たちも絶賛の嵐であった。

もっともそうなることは見た瞬間、私はすぐに予想できたし、理由もはっきりとわかった。結論から言えば、本作はとくにアメリカ在住の中年以上の業界人、ようするにオスカー会員のような人たちから確実に「愛してもらえる」要素を、きわめて計算的に盛り込んだ作品ということである。

ロサンゼルス、すなわち夢の国を意味するタイトルからして、そうしたコンセプトだと明言しているのであり、それを完璧に具現化したデイミアン・チャゼルの手腕は見事といえる。

故郷を離れ、世界中から集まるハリウッドの住人たちは、映画の二人のように忘れられない出会い、そして成功と挫折を繰り返してきた。そういう人たちがこれを見たら、いいようのないノスタルジーを感じ、幸福な思いに包まれることだろう。ロスの名所を巡り、感情移入しやすい王道のミュージカル演出とリズムで彩る。85年生まれの監督だから決してリアルタイムで体験したはずもない古典ミュージカルのオマージュもキッチリ盛り込む。そして投票権を持つおじさんたちの脳内思い出がセピア色でなく、テクニカラーだということもこの理論派監督は完璧に理解している。コロリとしてやられた業界人が多数いることを見れば、監督賞にふさわしい才能であることは間違いない。

だが、監督が優秀だからと言って本作が誰にでもすすめられる傑作ということにはならない。

確実に本作を楽しめるのは、まず第一に映画業界(できればアメリカ)の住人であること。そうでない場合でも、彼らのように「孤独と隣り合わせで夢を追いかけた」経験者であること、これが大事だ。そうでなければこの、いい大人なのに青臭いボーイミーツガールなストーリーには耐えられまい。

逆に、見たこともない斬新なミュージカル映画を体験したいとか、ハイレベルなダンスを見たいとか、面白いストーリーを楽しみたいとか、前作「セッション」のような才気を感じてみたいといった人に全く本作は向いていない。ミュージカルならなんでも大好き、な人でもなければおそらく冒頭の高速道路ダンスと、ラストのそれ以外は少々退屈な時間を過ごすことになるだろう。

 
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