「マリアンヌ」70点(100点満点中)
監督:ロバート・ゼメキス 出演:ブラッド・ピット マリオン・コティヤール

中年以上のカップル向きの古くて新しい映画

「マリアンヌ」は、クラシカルな雰囲気のスパイ&恋愛映画だが、ロバート・ゼメキス監督が撮るとさすが、エンタメ性の高いルックとなる。

1942年、諜報員のマックス(ブラッド・ピット)は仏軍レジスタンスのマリアンヌ(マリオン・コティヤール)と夫婦を装い、協力してドイツ大使暗殺に挑む。互いの凄腕ぶりと息の合った仕事ぶりに運命を感じたマックスは、そのまま彼女に告白し結ばれるが……。

舞台がカサブランカということでわかるとおり、往年のハリウッドの名作を存分にオマージュした内容で、とくに衣装や美術については「カサブランカ」(1942)を参考にしたと制作陣は語っている。

しかし撮影技術は現代のそれだから、冒頭のサハラ砂漠落下傘降下の迫力あるシークエンスなど、大画面に映える演出も多い。荒唐無稽に見えない、かつ前述のクラシックな見た目を崩さない程度のアクションで楽しませてくれるが、こうした王道の活劇風大作はいま新作で見ると新鮮である。

ストーリーの後半部分は何を話してもネタバレになるのであえて書かないでおくが、上記あらすじはごく導入部であって、本筋はこの後である。男と女の信頼、夫婦の絆とは何か、信頼というものがいかに大きなものか、だれもが共感できるテーマを描いてゆく。中年の夫婦でこういう映画を見たらとても楽しめるだろうと想像する。

なぜ中年限定かというと、なにぶんこの映画に出てくる二人の俳優があまりに年を取り過ぎだからである。

この青臭いストーリーとキャラ設定には、どう考えてもブラピ(63年生まれ)はおっさんすぎるし、マリオン(75年生まれ)はおばちゃんすぎる。いうまでもなく美男美女だからファンタジーとしてぎりぎり許されるが、本来ならあと20歳くらいは若い役者に演じさせたい役柄である。だがそうなると、中年夫婦がみるにはキツいだろう。

男から見れば胸躍るスパイ映画であり、女から見れば泣けるロマンス。非現実的なスパイ同士の禁断の結婚の話でありながら、裏切りだの秘密だのといった要素はどんなカップルにもある身近なテーマ。そんな「マリアンヌ」は決して長く後に残る映画作品ではないが、ストーリーが疾走しており終末のディナーのお供ならば十分にその役を果たすだろう。



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