「デスノート Light up the NEW world」35点(100点満点中)
監督:佐藤信介 出演:東出昌大 池松壮亮

原作を超える脚本を作れた確信をもってから映画化すべし

非難ごうごう炎上確実な人気漫画の実写版の中で、「デスノート」シリーズの実写版は珍しく賛否両論である。私のように評価しないものもいれば、これは成功例、などとほめる人も多い。そして、原作から完全に離れたオリジナルストーリーによる続編「デスノート Light up the NEW world」の評価も、おそらくそうなるだろうと予測できる。

夜神月とLの死闘から10年が過ぎたころ、再び人間界でデスノートによる殺人事件が始まった。かつて日本の警察内に設立されたデスノート対策本部は、キラ事件をマニアックに研究し続けてきた三島(東出昌大)を中心に、前回の教訓を生かした対抗措置によって必死にそれを阻止せんとする。だが、今回人間界にばらまかれたデスノートは、彼らが予想していた以上の冊数であった。

この映画シリーズは本作含め、映像が思わせぶりでよく出来ているため、高校生くらいまでの子供が見ればそれなりに楽しめるようになっている。だが、原作漫画の持つポテンシャルは子供どころか大人まで十二分に楽しませるものがあるのであり、私のような違いの判るダンディな大人が読んでみれば、結局のところ映画版の力がはるかに弱いことがわかる。これが、このシリーズが賛否両論となっている理由である。

子供も含めてダメさバレバレの類似品に比べればいくらかマシなのは確かだが、それにしても本作も大人が鑑賞するには厳しいものがある。

一言でその理由を言えば、デスノートを拾うのがことごとく馬鹿ばかり、という点に尽きる。ついでに、それを追いかける警察もあまり頭がよろしくない。それが興ざめする最大の理由である。原作には少なくとも、その点をうまくカバーする演出なりの配慮がなされていた。

だいたい映画だってもう4本目なのだから、そろそろデスノートの弱点や限界、注意点を作り手も"熱烈なファン"と同レベルくらいには共有してほしいと思う。

その、いわばデスノートゲームの最重要点というものを一言でいうなら「デスノート利用者の優位というのはステルス性がすべて」ということである。つまりこの物語は所有者も追う側もステルス性こそが生命線なのであり、そこを極めてこそのスリル、サスペンスなのである。

なのに、この映画に出てくる警官たちはひじだけで顎(顔の下半分)を隠して所有者を追いかけてみたり、のほほんと素顔で会いに行ってみたり、対応が雑なことこの上ない。

キラ登場から10年も経つんだから、対策チームなんていうならばこちらが想像する以上のものすごい、それこそ完璧すぎるデスノート対策くらいしておけと、100ぺんくらい脳内で突っ込みたくなること確実である。

そのうえで、それを上回る所有者の戦術とアイデア、それを見せてこそ原作超えのエンタテイメントができるというものではないか。観客の予想を超える攻防戦を見せてこそ、わざわざオリジナル続編を作る意義というもの。それができないなら、できる脚本アイデアが出てくるまで映画化を我慢することも大切だ。それがファンへの最低限の敬意、というものであろう。

たとえば「シン・ゴジラ」ではないが現実の日本にこんなノートが現れたら……という点を徹底的に突き詰めてみたらどうか。なにしろこの映画に出てくる警察はとても非現実的だ。とくにある女を無罪放免にする設定などはあまりにもありえない。現実に、冤罪が疑われる死刑囚がどれだけいる(いた)と思っているのか。やるときは、どんな言いがかりをつけても永久に逮捕拘束するのがニッポン流というものだ。

この点をもう少し言及すると、現実にデスノートが現れた場合、一番怖がるのはいわゆる上級国民であることが誰にでもわかるだろう。どこかの首相なんぞは、真っ先に100回くらい殺されていても不思議じゃない。芸能人も、アンチが多い映画批評家も、あっという間にあの世行きだろう。

逆に言えば、デスノートを社会のどの階層が拾うかで階級闘争が起きるのであり、その結果、善政になるのか、ウォール街が庶民のフリマ場になるのか、いずれにせよこんなものが本当にあったら……そんな禁断の妄想を満足させる部分があってもよかった。

あとこの映画の作り手は、ハッカーを神様か何かと思っているふしがある。どうみてもこの映画に出てくるそれは、デスノート以上に無敵である。だいたいあんな技術があったらデスノートなんていらないだろと、再び脳内でつっこまざるをえない。こうした抜けた演出がまた、物語から緊張感を奪っている。

かようにいろいろと惜しい点はあるわけだが、もともと原作超えなんて無理だろうとの低いハードル感がこれだけ蔓延していると、今更ファンからさほどの反発を生むこともあるまい。それはそれで悲しい話ではあるが。



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