「ザ・ギフト」80点(100点満点中)
監督:ジョエル・エドガートン 出演:ジェイソン・ベイトマン レベッカ・ホール

タイトルが怖い

「ザ・ギフト」は、同種のストーカー型サスペンスのひな形を踏襲するかと見せかけて、なかなかしゃれた(適切な表現ではないかもしれないがネタバレを避けるためあえてこう書く)展開で驚かせる佳作である。

シカゴからカリフォルニアの郊外に越してきたサイモン(ジェイソン・ベイトマン)とロビン(レベッカ・ホール)。経済的に成功し、かつ仲のいい夫婦である二人は、ある理由から夫サイモンの故郷であるこの地に戻ってきたのであった。そしてまだ引っ越し作業も終わっていないとき、買い物先でサイモンは高校時代の同級生ゴード(ジョエル・エドガートン)と25年ぶりに再会する。ところがその日からことあるごとにゴードから住所も教えていない新居へ贈り物が届くようになり、ロビンともども困惑する。

再会時は大人らしく友好的に振舞ったサイモンだが、昔から別にゴードとは仲良いわけではなく、それどころかあまり好きではなかったことが徐々に観客にもロビンにもわかってくる。ただ最初はそんなことは知らないから、ロビンは序盤、急にやってきたゴードにも満面の笑顔で応対する。

レベッカ・ホールのような美人を、あんな馬鹿でかい屋敷にひとり残して出勤する男と同じ不安を観客もまずは共有する。しかもこの豪邸ときたら、なんでそんなところを一面ガラス張りにするんだよというくらい外から丸見え。まわりは自然に囲まれ人気はない。あちらからは見えない遠くから長身スタイル抜群の人妻レベッカ・ホールを眺めれば、そりゃよからぬことが起きそうな予感が……というやつである。

ところが意外なことにゴードは大変親切で、かつ紳士的な振る舞いに徹する。ちょっとばかし空気の読めない贈り物攻勢をするだけである。

だがこの、ちょっとだけ、が映画的にはみごとな効果を上げる。誰もがこういうKYな奴と接した経験があるだろうが、だからこそ身近で実感を伴う不気味さ、恐怖を感じられる。こういうやつが急変したら……? 考えるだに恐ろしい。

そんなわけで、最初から最後まで気を抜ける瞬間は一つもない。本作は基本的に万人向けだが、とくに井戸端会議で人のうわさをするのが好きな奥さんたちには、抜群に面白い映画だろう。そういう人たちは、ようするに人間観察が大好きなのであり、またちょっと変わった人間をみんなで一緒に迷惑がることによって強い絆を構築する性質がある。この映画を楽しむには、そうした性質、つまりサイモンと一緒になってゴードを疎ましく思うような観客が一番適している。

そんなわけでこうしたストーキングの怖さ的なものを扱う映画としての面白さは十分に持っているわけだが、本作が素晴らしいのはそこから先、なぜゴードは変なのか、いよいよコトの真相が明らかになっていくくだりである。おそらく観客は大きく翻弄され、最後はあれれ、っとひっくり返されて帰路に就くだろう。

なにかこう、はっきりしない落ちだな、なんて考える人もいるかもしれない。だがそんな人たちも、帰り道にこの超映画批評をここまで読んで、そこでふと気づくのである。私が最も評価している、つまりはこの映画のタイトルの持つ真の意味を。

「空気が読めない」という病 (ベスト新書)
これぞ現代病か。


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