「インフェルノ」85点(100点満点中)
監督:ロン・ハワード 出演:トム・ハンクス フェリシティ・ジョーンズ

シリーズで最もライトユーザー向き

ロバート・ラングドン教授がアカデミックな観光名所で知的な大冒険を繰り広げる『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの第3弾は、上映時間短め、アクション風味強めの、万人が等しく楽しめる良質な娯楽映画になっている。

病院で目覚めたラングドン教授(トム・ハンクス)は、ここがどこなのか、なぜここにいるのかなど、記憶の一部を失っていた。だが確実なことは、自分が何者かに狙われているということ。その謎を考える暇もなく襲撃された教授は、担当女医のシエナ・ブルックス(フェリシティ・ジョーンズ)を巻き込んで激しい逃亡劇へと放り出されるのだった。

面白さだけなら間違いなくシリーズ一番。とくに序盤からのノンストップ感がものすごい。なにしろあのラングドンが登場した時から重症で、やたらと気の利く美人女医と逃げまくる。追いかけてくるのはこれまたT-Xのごとき、おっかない美人である。伝統的な巻き込まれ型サスペンスとでもいおうか、中高年でも若者でもすんなり入り込める見事な冒頭部といえる。

だいたいこのオッサンはいつでもそうなのだが、風光明媚な名所でばかりトラブルに巻き込まれる。本作でもフィレンツェを皮切りに、バディア・フィオレンティーナ教会、ボーボリ庭園、ヴェッキオ宮殿、そして幻想的というほかないイスタンブール地下宮殿と、よくぞまあこれほど素晴らしいものをたったの1800円で見られるものだとうっとりするばかり。

しかもそうしたロケ地と、セット撮影であろう場面のつなぎ部分はさっぱりわからないほどよく出来ている。撮影方法もトム・ハンクスの視線で動き回ったり、低空飛行のドローンを使ったりと大画面で見るにふさわしい、工夫を凝らしたもととなっている。

最近はアニメの舞台を回るマニアが増えているというが、確実にかの地の旅行代理店から感謝されるであろう、これぞ聖地巡礼ツアーの最高峰である。有名な観光地の舞台裏に入ったり、秘密の通路があったりと、わくわく感が尋常ではない。

そういう仕掛けを熟知していて我が家のように突き進む、あの教授のような物知り君とこうしたアカデミックな場所を巡ったら、どんなにか面白いだろうとヒロインを羨ましく思うのは私だけではあるまい。まあ、そんなに羨ましかったらこの映画を見れば済むことなのだが。

脚本面、謎解き面でもこの映画は大変に親切。わかりやす過ぎて前作までの鑑賞すらまったく不要だ。事前には、ラングドンという歩く辞典のようなおじさんが、観光地を回ってなにか大事な謎を解く映画と、それだけ知ってれば問題ない。

ミステリとしてのトリック部分は、この映画がダンテの神曲の地獄篇をモチーフにしている時点である程度予想ができてしまうものなので少々弱い。逆に言えば、この1文を読んでもピンとこない人は、何も予習せず見に行けば、びっくり仰天できるかもしれない。

最大の見どころはやはり地下宮殿での攻防戦。シンプルに見えながら複雑な、まさに攻防戦になっていて見ごたえ十分。

それにしてもこの映画の素晴らしいところは、流行の細かいカット割りなんぞなくても、スタントが地味でも、ものすごいアクション映画を見た気になる、満足感を得られるところである。

それはトム・ハンクスのような共感力の高い役者による濃厚な感情移入のたまものであるが、逃亡しながら大急ぎで各所をめぐる展開、だからこそ必死に隅々まで見逃すまいとこちらも集中する、そんな適度に緊張感をもたらす作り手とのやりとりにもあるのかもしれない。

 
インフェルノ(上) (角川文庫)
じっくり読みたい方はこちらから。
▼『超映画批評』全文検索
Google
  Web movie.maeda-y.com   


連絡は前田有一(映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.