「金メダル男」65点(100点満点中)
監督:内村光良 出演:内村光良 知念侑李

必死に生きる人々に勇気を与える力がある

「金メダル男」は、監督のウッチャンナンチャン・内村光良の思いがどストレートに伝わってくる点において、強く心に残る映画である。

東京五輪を前にした1964年に誕生した秋田泉一(内村光良)の平凡な少年時代が一変したのは、小学校の運動会で一等賞を取った時だった。そのあまりの快感に酔いしれた彼は、その後、書道や絵画、火起こし大会など何から何まで手を出し、一等賞を取ることにまい進するようになった。やがて成長した彼がどんな人生を歩んだかというと……。

独りよがりな芸術とやらを追求する自己陶酔的な映画を作ることが少なくない異業種監督のなか、内村光良監督の映画は伝えたい思いが常に最初に強くあり、そしてそれが伝わってくる点で大変好感が持てる。

和製フォレストガンプとでもいうべきこの「金メダル男」も、一人の不器用な男の人生へ伴走させることで、観客に明日への活力を与えたいという監督の温かい人間性を感じさせる。

それが最初に現れるのは、無人島でのシークエンス。ここで描かれるのは、人生に無駄などない、余計な回り道なんてないんだ確固たるメッセージ。これを必死に監督はこちらに伝えようとする。

今の時代は、何か一つのことに打ち込み、立派な成果を成し遂げることが何よりもてはやされる世の中である。だがその価値観から見たら、何ひとつ極めることのないまま、あちらこちらに手を出し年を取ってしまった主人公は完全に負け組になってしまう。

しかし彼の、世間一般の価値観からでは不毛にしか見えない奮闘ぶり、煮え切らない人生に共感する人は少なくあるまい。では秋田泉一も、彼に共感する観客もはたして間違っているのだろうか?

否、そうではあるまい。というより、多かれ少なかれ人生というのは本来こういうものではないのか。天才的才能や恵まれた環境にいる一握りの人間ばかりが目立つが、そうではない人間、努力どころか何をすればいいのかすらわからないような、それでもなんとか生き続けている人がほとんどであろう。

そんな愛すべき普通の人間たちを、この監督は力強く肯定する。内村監督はお笑い芸人として後輩たちから強く慕われているといわれているが、この映画を見るとその理由がなんとなくわかる。「金メダル男」からは彼の人間性、性格の良さが強く伝わってくるのである。

映画作品としてみれば、冒頭のギャグシーンにもうすこし鉄板ネタをもってきて、一瞬で乗り切れるようにしてほしいなどといった、細部にまだ不満も感じさせる。だが、そうした不器用さがむしろ親近感を抱く効果を上げているふしもある。

なにより命名のシーンや木村多江絡みの展開、部屋から起きられなくなった後の展開、金賞写真のエピソード、そして「ある少年」の徒競走一位の知らせを聞いた瞬間の内村の表情の演技など、この映画には輝く瞬間がいくつもあるのである。

こうした珠玉の場面場面を見ていると、俺ももう一度だけ頑張ってみるか、という気になってくる。まぎれもなく、それだけの力がある映画である。かつて取れていた一等賞が取れなくなった全ての大人に送る応援歌、それが「金メダル男」といってもいい。

私はこの映画を、まだ完全に落ちきってはいないギリギリのところで踏ん張っているが、心が折れそうになっている人にこそ見てほしい。また、一箇所ほどちょっとしたエロネタが気になる部分はあるが、小学生でも見られそうなドラマだし、わが子に見せたいと思う父親もきっと多いだろう。

金メダル男 (中公文庫)
自伝的ともいわれる小説版はこちら。


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