「ボーダーライン」75点(100点満点中)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:エミリー・ブラント ベニチオ・デル・トロ

トランプ躍進の謎が解ける

共和党の有力候補ドナルド・トランプは、メキシコ国境に「万里の長城」を建設するとぶちあげている。しかも1兆円ともいわれる建設費は全額メキシコ持ち。突然そんなものを押し付けられたメキシコの納税者はたまらないが、アメリカの有権者は拍手喝采だ。

いったいなぜこんな暴言が支持されるのか。その謎を解くのが「ボーダーライン」。メキシコ麻薬戦争の裏側を初めて描いた本格アクション映画だ。

メキシコとの国境線で活躍するFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)は、麻薬カルテル殲滅のため国防総省らが主導する特別編成チームにスカウトされる。そこには素性のわからぬコロンビア人(ベニチオ・デル・トロ)がいてケイトは警戒するが、捜査を主導するのはやたらと現地の裏社会に詳しいその男だった。

のっけから驚かされるのは、国内では最優秀捜査官として凶悪犯を制圧してきたケイトが、メキシコを主戦場とするこの組織では完全にお嬢さん扱いな点。

つまり、メキシコ麻薬戦争の現場で戦う荒くれ男たちにとっては、その程度の実戦経験など嘲笑の対象でしかない。いったいこいつらは普段、どんな地獄で鍛えられているのか。

それが明らかになる、国境の向こう側まで車列を組んで護送するアクションシーンがすさまじい。例のコロンビア人をはじめ、あやしげなメンパーたちは全員が軍人並みの完全武装。それが何台もの車に分乗し、信号も国境警備所も完全無視の特権扱いでものすごいスピードで駆け抜ける。

渋滞していれば道を変え、路肩も裏道もかっ飛ばす。なぜなら一瞬でも停車すれば、敵に襲撃され全滅するからだ。これがごく普通の一日、真昼間の日常。やがて国境を超えると住宅街で撃ち合う銃声が聞こえ始め、見上げれば何かの見せしめの死体がぶら下がっているにわかには信じられないが、メキシコ側はもはや無法地帯だ。

いくらなんでも絵空事だろうと誰もが思う。だが昨年、麻薬犯罪一掃を宣言したメキシコの新市長は就任翌日に惨殺された。そこから流入する不法労働者には仕事を奪われ、麻薬で治安も破壊される。トランプの壁が支持される、これがアメリカの現実だ。

それに対抗するには、後半ケイトが圧倒される「汚れ仕事」が必要だと本作は訴える。カナダ人監督だからこそ暴けた、これは現代アメリカの闇だ。こんな泥沼の戦いを続けるくらいなら「一兆円の壁」のほうが、もしかすると人道的かつ現実的ということか。

 
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