「ハイ・ライズ」45点(100点満点中)
監督:ベン・ウィートリー 出演:トム・ヒドルストン ジェレミー・アイアンズ

タワーマンション住民間の格差とは

タワーマンション在住といえば聞こえはいいが、じつは住民の間では上層階と低層階で明らかな格差問題が存在する。上の住民は下々の人々を見下し、ありとあらゆる場で低層階住民は劣等感にさいなまれることになる。その見えざる人間関係のドロドロが究極にエスカレートしたら……? 映画「ハイ・ライズ」は、そんなタワマンの悲劇をシニカルに描いた社会派の寓話的ドラマである。

ロンドン郊外にそびえたつタワーマンションの一群。その一つの中層階に越してきた独身医師のラング(トム・ヒドルストン)は、さっそく住民のパーティーに誘われる。だがそんな華やかな暮らしの陰に、住民間で軋轢が生じていることに気付く。生活のあちこちでいざこざが起き、やがてその不満の臨界点を超す日がやってくる。

日本では偶然、同テーマのテレビドラマの放映も予定されていることもあって、これは現代の物語だと思う人がほとんどだろうが実は違う。J・G・バラードの原作は40年以上も前に発表されたものであり、映画もその時代を舞台にしている。

なんという先見の明だと驚く人も多いだろうが、当時はWTCなど高層ビルの建築ラッシュであり、そこから着想を得たSFといえる。だが、ハイソな住民たちが壊滅的な対立へと追い込まれてゆくバラードのディストピア世界観は、あながち現代では絵空事ではなくなっている点が恐ろしい。

とはいえ、ここで描かれるのは決してリアルなものではない。こんなものは極端にデフォルメされた、ありえないお話だと、本物のタワマン住民は憤慨するに違いない。

だがこの映画を「タワマン住民同士のいざこざの話」と見ていては、実は本質は見えてこない。だからひとつ種明かしをするが、ここにでてくる高層マンションは、資本主義の縮図、つまり暗喩となっている。

上と下では圧倒的な格差があり、各階層は仕切られており、移動の自由はない。だが時には下剋上がおこる。

非常にわかりにくく、シュールで、場合によっては退屈な「変な映画」だが、上記を念頭に見ていけば、スルーしてしまうような奇妙なセリフのひとつひとつが何を言いたいか、わかるかもしれない。登場人物の命名にも、ちゃんと意味がある。その点では、気楽な娯楽映画では全くなく、寓意を読み解く努力が必要な作品である。また、直接的なセックス描写も多いから、大人でも人によっては要注意であろう。

私にとって興味深かったのは、破滅の要因が外にあるか、内にあるか、という点である。原作発表当時のイギリスは不況で失業率が上昇し、社会の生産性は低下していた。先行き不安ばかりという点では、いまの日本とも一部共通する。こうした社会において、破滅が訪れるとき人間はどう変化していくのか。バラードの"予言"を、フィクション映画の形で味わってみるのもおつなものだ。

 
ハイ・ライズ (創元SF文庫)
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