「ウォークラフト」60点(100点満点中)
監督:ダンカン・ジョーンズ 出演:トラヴィス・フィメル ポーラ・パットン

CGキャラとの演技合戦

夏の大作群に先駆けて公開される「ウォークラフト」は、プレイヤーの登録数がギネス記録を持つ超人気オンラインゲームの実写化。圧倒的知名度と期待を背負った実写版だけに、早くも世界19か国で興収トップを記録した大ヒット作だ。

人間が住む王国アゼロスに、故郷を失ったオークの軍団が侵略してきた。全面戦争の危機の中、ひとりのオーク氏族長だけは共存の可能性を探っていたが……。

ジャンルは「ゼルダの伝説」や「ドラゴンクエスト」、映画でいえば「ロード・オブ・ザ・リング」と同じく中世ファンタジーに属する。エルフやドワーフ、ゴブリンが闊歩する定番の世界観は比較的なじみやすい。

ドンパチ以上に人間ドラマを重視した内容も、大人の鑑賞に堪える重厚感がある。ゲームの映画化なんて……と敬遠する人たちも、なかなかどうして。お子様・家族向けにとどまらず、楽しめる作品となっている。

大まかな設定を説明すると、まずアゼロスと呼ばれるこの世界には、人間とその友好種族が暮らしている。ところがそこに、巨大な肉体と好戦的な性質を持つオークの大軍が侵略してくる。防衛戦を決意した人間側は、守護神と呼ばれる頼もしい魔法使いの助けを得つつ、戦士ローサー(トラヴィス・フィメル)とレイン王(ドミニク・クーパー)を中心に激しい戦闘を繰り広げてゆく。

実にシンプル、悪く言えばありがちな話だが、ユニークなのはこれが単なる戦争アクションものになっていないことだ。

敵オークは400kgはありそうなマッチョボディに牙をもつ鬼のような種族だが、知能も社会性も高いという設定。そんな彼らの中で異彩を放つのが、一方的な侵略と虐殺を望まぬ誇り高き氏族長ドゥロタン。映画は彼を第二の主人公として、人間側との和解を探るその試みを丁寧に追いかける。

面白いのは、この氏族長ドゥロタンは家族思いで、美人の奥さん(ただしスーパーマッチョ)といちゃついたり、なんと長男の出産シーンまである。敵モンスターの赤ん坊の感動的な誕生を描いたファンタジー映画とは、なかなか衝撃的である。

この愛すべきオークのお父ちゃんが、戦争まっしぐらの組織上層部と、守るべき部下や家族との間で苦悩する姿は中間管理職の悲哀そのものといえる。それでも人として正しい道を進もうとする彼に、思わず共感してしまうわけだ。厳密には人じゃなくオークだが……。

そんなドゥロタンらオークたちは、役者の動きをモーションキャプチャーで取り込みデジタル化したCGキャラ。見た目以上にひらひらと動き回る重量感のなさが気になる部分もあるが、そうした違和感は想定内に収まる。

それ以上に、比重として半分くらいを占める彼らの登場シーンはにおける「演技」たるやほぼ完ぺきで目を見張る。人間のレイン王(こちらは生身の役者が演じる)らとついに対面し、両種族の将来を思う提案をする場面は大きな見せ場なのだが、正直なところヒトの演技よりも心を震わせるものがある。

今どきのハリウッド映画では、役者の最大のライバルは計算しつくされた表情と動きで絡んでくるCGキャラということで、人間側もなかなか大変である。

製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズは、今年中国一の大富豪に買収され話題になったのが記憶に新しい。領土的野心を持つオーク軍が単純な悪役ではなく人間以上に人間味(?)ある存在に描かれている点など、これまでのハリウッド映画とは一味違う本作の特徴も、そんなニュースを思い出すとどこか深読みしたくなる。「ウォークラフト」は、そんな独特の面白さを持っている。



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