「シークレット・アイズ」80点(100点満点中)
監督:ビリー・レイ 出演:キウェテル・イジョフォー ニコール・キッドマン

演技力を堪能できる数少ないドラマ

スペイン映画「瞳の奥の秘密」(09年)のハリウッド版リメイクである本作は、ストーリーじたいの面白さも去ることながら、役者の演技力というものを純粋に堪能できる数少ない逸品である。

FBI捜査官のレイ(キウェテル・イジョフォー)は、ある殺人事件現場で、被害者が相棒のジェス(ジュリア・ロバーツ)の愛娘であることに気づき愕然とする。ひそかに思いを寄せるエリート検事補クレア(ニコール・キッドマン)の協力も受け、容疑者を挙げたまではよかったが、なぜか上層部は男を開放するよう圧力をかけてくる。

ニコールとジュリアは、そのキャリアと人気を考えると意外な気もするが、これがはじめての共演となる。そんなにギャラが高かったのかと皮肉の一つも言いたくなるほど、もっと早く見たかったといいたくなるほど、期待にたがわぬすばらしいパフォーマンスを見せている。

まずジュリア・ロバーツは、原版のキャラクターとは性別が違っている。そのせいで物語に無理が生じる寸前までいっているものの、我が子の死体を発見するシーンではそれを補ってあまりある感動的な演技を見せる。手袋をはずす動きはアドリブだというが、見事な効果をあげている。

ニコール・キッドマンは、若い容疑者を予想外の方法であおりまくる取調室での演技がすごい。これは、よほどの性的魅力と男を苛立たせるタカビーさのようなもの、そして手の付けられない暴走っぷりを両立させないと説得力がないのだが、彼女はそれをやりとげた。

その前の、ブラウスのボタンが吹き飛ぶ場面での、こちらまでドキッとするような色気も印象的。小さなボタンが、溢れんばかりのオンナを封じ込めていたのだと思わせるあの場面があるからこそ、取調室でのやり取りが生きてくる。

二人を相手にしたキウェテル・イジョフォーもうまかった。とくにニコールえんじるクレアとの叶わぬ恋物語がこれほど心に残ったのは、彼の重要な功績である。

とくに印象的な二つのセリフがある。まず「なぜ奥さんとは失敗したの?」と聞かれた際のセリフ。そして「なぜついてこいといわなかったの?」と問われたときの返答である。この二つは実にいい。いかにクレアを愛しているか、その言い方やまなざしで端的に表現している。

レイの、クレアへのかなわぬ思い。すべては彼女が超がつくほどのハイスペ女子で、自分がいち労働者階級であることに要因がある。決して自信がないわけではない。元々はナンパ師のような軽妙さで声をかけていたくらいなのだから。だが、相手を知れば知るほど、言えなくなる言葉というものがある。だから彼のせつない選択は見ている男たちを泣かせるわけだ。

お話のメインとなるサスペンスの方だが、相当えぐい真相と結末が待っている。だがそれでも映画全体をみれば不快に感じないのは、この映画が徹底して人が人を思いやる優しさ、その暖かさを描いているからである。娘を殺されるなど悲劇的要素が強いものの、それが救いになっている。



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