「日本で一番悪い奴ら」75点(100点満点中)
監督:白石和彌 出演:綾野剛 YOUNG DAIS

リアルウシジマくん

北海道警察において、"日本警察史上最悪の不祥事"を巻き起こした一人の悪徳警官を描いた実話映画「日本で一番悪い奴ら」は、あまり意識されていないが現在進行中の案件だったりする。

柔道で名を挙げた諸星要一(綾野剛)は、北海道警察に入り刑事となった。そこで彼は村井という悪徳刑事から「調書なんか作る暇があったら現場でS(スパイ)を作って点数を稼げ」とのアドバイスを得る。猪突猛進型の体育会系な諸星はそれを真に受け、ほとんど違法な捜査で頭角を現していく。「日本一の刑事になりたい」その強い思いは、やがて易々と最後の一線を越えエスカレートしていくが……。

今年3月、ロシア人の元船員が「北海道警のおとり捜査は違法だった」と訴えて再審が決まったとの報道がなされたのだが、その時このロシア人に違法な密輸拳銃を持ってこさせた警部補、というのが本作の主人公のモデル稲葉圭昭である。

この事からわかる通り、主に90年代を舞台にした本作で描かれる実話「稲葉事件」はいまだに続いている。現役の北海道警のなかにもおそらく何人も関係者がいるだろうし、なにがしかの形で悪事にか関わったものもいるだろう。なぜそういえるのかと疑問に思う人は、この映画を見ればわかる。

綾野剛はこの悪徳警官役に挑むにあたって、かなりの役作りを行ったときく。たとえば柔道家の特徴ともいうべき餃子耳だが、彼はじっさいに薬物注射で作り上げようとした。しかし、この映画に柔道シーンはごくわずか。気合いのはいった役者の辞書にコスパの文字はない。

ファンにとっては幸いなことに注射案は監督が却下したが、綾野剛のそうした努力はこの主人公にたんなる悪ではない、人間的魅力を加えることに成功した。

ピエール瀧演じる先輩悪徳警官からの無茶な教えを無批判に受け入れる体育会脳っぷりも、その行動力があまりにぶっとんでいる、かつ動機が少年のように純粋なものだから思わず共感してしまう。ここはこの役柄の最大のハードルだったが、綾野剛と白石和彌監督は軽々越えてきた。

その後はまるで若者の成功物語を見ているように、諸星要一という男の悪事がエスカレートしていく様子を楽しめる。金回りがよくなるから、生活も派手になっていく。いい女と激しいセックスをし、舎弟を増やしていく。

その先に破滅があるのは主人公以外誰もが感じている事だが、躊躇せず突き進んでいく。バカだが、凡人にはとても真似できないから、痛快さを感じさせる。これが実話というのだから、まさにリアルウシジマくんというほかない。

いうまでもないが、ここであきらかになる道警、そして警視庁までかかわった馬鹿げた悪事の数々も、これまた実話である。

成績をあげるために裏社会の知り合いから密輸拳銃を買い受けるなど、まったくもってとんでもないノルマ主義の極みである。だが警察組織というものは、そういうことに基本的に罪悪感を持っていないということを、一度でも駐車違反で反則金を課せられた人なら知っているだろう。だからこの素っ頓狂なストーリーには、恐ろしいことにリアリティがある。

白石和彌監督は、この事件が進行中であり、さばかれていない悪が存在することを承知していながら、決してその告発と糾弾を目的に本作を作っている様子がない。

社会派で知られる彼のこと、心の奥底にはそうした牙を隠し持っているに違いないと私は思うが、今回はそれ以上に人間を描くことに力をいれている。

私は、北海道警察の人たちがどんな思いでこれを見るのだろうと想像する。もしかすると心の中で、軽妙でコミカルなこの映画のタッチとは似ても似つかない、どす黒い怒りが渦巻いてゆくのではなかろうか。白石監督も大胆な映画を作るものだ。

ここに、悪が世代間でうけつがれていく、それをさりげなく示唆するような描写を加えれば、なおさら今に繋がるテーマ性を強調できたと思うがそれはなかった。過去に起きたこと、としてだけ見るにはこの映画の持つ、事件の本質を貫く鋭さのようなものが、ちょいと惜しいと感じてしまうのである。

 
恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白 (講談社文庫)
モデルとなった警官本人の自伝です。
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