「嫌な女」50点(100点満点中)
監督:黒木瞳 出演:吉田羊 木村佳乃

黒木瞳初監督は普通の女性映画

女優・黒木瞳の初監督作品が「嫌な女」と聞けば、なんの自虐ギャグかと思いそうになるが、これは桂望実の同名ベストセラーの実写映画化である。

弁護士の石田徹子(吉田羊)は、学生時代にしっかり勉強をして司法試験にもすんなり合格、20代のうちに結婚もした。だが、はたからみると順風満帆な彼女の人生は、実際には孤独と満たされぬ日々であった。そこに、同い年の従姉・小谷夏子(木村佳乃)が突然現れる。聞くと、婚約破棄したら多額の慰謝料を要求されたたからてっちゃん助けて、と身勝手な理屈を振り回す。堅物だった徹子は、じつはこの従姉が昔から大の苦手であった。

久々の嫌な女との再会は、ヒロインの人生を一体どう変えるのか。ちょっとしたスリルとコメディを楽しめる軽快なドラマである。

この映画の一番の期待点は、女優がはじめて監督をする、その一点に尽きる。

それも黒木瞳自身がどうしてもやりたかった話ということだから、職業監督の作品とは違う、よほど特徴的な何かがあるのではないかという点だろう。

その視点からみると、まず印象的なのは、ミュージカルというほどではないが音楽が前に出てくる楽しげな演出があげられる。これはちょっぴり目を引く。

しかし、それ以外にはとくに個性的な「なにか」があるわけではない。いわゆる、ありがちな女性映画である。女性の成長と友情を描いた女性による原作を、女性監督が撮る。宝塚出身の黒木監督らしいといえば、らしい企画と言えるかもしれない。

吉田羊演じる徹子は、年の差20歳の若者とデートすることもなく、ひたすら真面目一徹に人生を歩んできた面白味のない女である。結婚はしたが、だから早々に愛想をつかされてしまう。

弁護士で見た目も悪くない、こうしたハイスペ女子がこじらせることはよくあるもので、見ていて違和感はない。吉田のイメージとも解離はないから安定感があるし、病院である老人の頼みを受けるシーンなどはとても感動的な見せ場になっている。

一方、嫌な女こと夏子役の木村佳乃は少々ミスキャストな印象を受ける。このキャラクターはもっと痛々しさがないといけないが、本作の木村は見た目が良すぎるのでそこが難しい。内縁の夫の人生ベストテンを明かすシーンが最大の演技どころだが、やや不発ぎみなのはそれも理由のひとつである。

ここは彼女に、これまでのいい加減な生き方を戒める意味合いが大きい場面で、ある程度のショックが不可欠なのだがそれが感じにくい。結果、映画のなかで彼女が徹底的におとされる局面がなくなってしまい、結末にも再生の感動が生まれない。

夏子は不器用な人間だが、狡猾でもある。こういうキャラクターに共感を与えるには、一度徹底的にいたい目に遭わせるのがよい。そういう演出上のコツを、当然かもしれないがまだこの監督は会得していない。

そのくせ、ハイスペ女子のダメっぷりを見せるシーン(手料理を元旦那にもっていく場面)などは、目をおおいたくなるようなベタベタな演出だったりする。初々しいのかババくさいのかよくわからないセンスである。

それでも、あまり細かいことは気にしないライトな女性ユーザーには、さほどの不満はでないであろうことも想像できる。多くは望めないが、こういう暇潰しのような映画もままあるのが現実なのである。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.