「追憶の森」65点(100点満点中)
監督:ガス・ヴァン・サント 出演:マシュー・マコノヒー 渡辺謙

富士の樹海と自殺を題材にした外国映画

名匠ガス・ヴァン・サントが、日本最大の自殺の名所を舞台に日本人の死生観を描く。なかなかユニークだが難しそうな企画である。しかし、渡辺謙が彼らに不足している日本についての知識を積極的に補うべくアドバイスをしてくれたため、「追憶の森」は日本人にとってこそオススメの人間ドラマとなることができた。

ある理由から人生を終わらせることを決意し、死に場所として富士の樹海を選んだアメリカ人男性アーサー(マシュー・マコノヒー)。ところが森の中で彼は、負傷して森から出たがっている日本人タクミ(渡辺謙)と出会う。タクミを救うべく森を歩き始めたアーサーだが、やがて二人はどちらともなく自分のことを語り始める。

森の中での会話劇がメインだが、さすがオスカー級ふたりの演技合戦は見応えがあり、かつ一流監督が作り上げる青木が原の物語は退屈知らず。実に面白い。渡辺謙が焚火のシーンで相手を思いやる表情などとくに素晴らしく、じつに胸を打つ。そもそもこの映画の脚本じたい、ブラックリスト(製作されていない優良脚本)のひとつだからハズレのはずがない。

ところが本作は、アメリカやカンヌでは不評だったという。きくと、なぜアメリカ人が自殺するのにわざわざ日本まで行くのかさっぱりわからない、ということだそうだ。

そりゃまあそうなのだが、実はちゃんと劇中でそれとなく示唆はされている。ただ、それでも海外の人には「富士=自殺」の図式が現実離れしているのだろう。

だが日本人にはその心配は無用だ。樹海といえば自殺。地元の方には不本意だろうがそれはすんなり受け入れられる設定であるから海外の酷評は日本人は無視してよい。

渡辺謙は劇中に出てくる鳥居のセットの文字を書いたり、病院の場面の内装や衣装を不自然にならぬようアドバイスしたり、その他もいろいろと監督に助言したという。日本の役者はあまりこういうことをする人はいないが、ハリウッドでは比較的多い。いずれにせよ、作品の品質が上がるなら結構なことである。

「追憶の森」の場合はこれが功を奏したようで、日本人が見ても不自然さがあまりない。撮影の多くは米国内の森だから風景的におかしな部分はあるものの、許容範囲だろう。

だいたい外人に任せておくと、築地市場でやくざの抗争が始まったり、金閣寺に「東京」などとテロップを出したりと滅茶苦茶になるので、少しは口を出したほうがよいのである。

ひとつ問題をあげるとしたら、メイントリックのひとつが日本人には通用しにくい点か。ただ、私などはあまり深く考えずにいたおかげでたまたま気づかず、監督の狙い通り感動することができた。

海外の作品だが、日本を舞台にしている上、日本人にこそ響く内容。よって、繰り返しになるが日本人こそ見る価値がある作品といえるだろう。

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社会派な題材、静かなタッチの同監督映画。
青木ケ原樹海を科学する―自殺するには根拠(ワケ)がある (ちょっとミステリー)
外国でもその筋の方には有名な名所だそうです。


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