「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」85点(100点満点中)
監督:アンソニー・ルッソ 出演:クリス・エヴァンス ロバート・ダウニー・Jr

全アベンジャーズシリーズでも出色のアクション

私はかねてからアベンジャーズシリーズの問題点として、ヒーローの供給過剰と悪役の存在感不足をあげてきた。それを何とかしないとジリ貧だと予言していたわけだが、マーベルかディズニーの偉い人が感心にも当サイトを読んでいたか、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」ではその不安を払しょくする見事なストーリーを出してきた。

アベンジャーズは世界を救ってきたが、その代償として各地は深刻なダメージを受けていた。やがて、ただの民間組織ながら我が物顔で世界中を跋扈するアベンジャーズに対する世界の目は厳しいものとなっていった。あるテロ事件の捜査で犠牲者を出したことを契機に、ついに彼らを国際的な組織の管理下に置くべきとの声が高まってきたが、アベンジャーズのリーダー、キャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)は強く反対する。

キャプテンことスティーブ・ロジャースは、かつて裏切られた経験からもともと組織というものを信用していない。と同時に、アベンジャーズ随一の純粋な愛国心の持ち主であり、善悪に対する自分の判断というものに絶対の自信を持っている。合議制が常に正しい結論を出すわけでなく、まともなリーダーならば独裁制のほうが世の中がよくなる論すらあることを考えれば、彼の考えには十分な説得力がある。

だが、アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)はそう考えない。彼がヒーローになったのは、自分が良かれと思って作ってきた会社や発明品が、あずかり知らぬところで多くの不幸を生み出していた現実を知ったからであり、そもそも自分の限界というものを痛感しているタイプである。

価値観や生い立ち、生きてきた時代すら違う二人の意見にアベンジャーズも真っ二つに割れる。やがて彼らはついにぶつかることになる。

ヒーローが増えすぎたので二つに分けて紅白戦を行う。ヒーローのインフレを解決する見事なアイデアである。原作から大きく異なっている部分は、現実社会を暗喩させるなど観客のニーズに合わせた変更となっている。ストーリーも見せ場も非常に出来が良い。年間何本もないエンタメの佳作、一級品である。

映画として優れているのは、この手にありがちな「どうせもっとデカい敵が現れて、結局手打ちして一緒に戦って終わりでしょ」というパターンを踏襲しなかった点。それどころか、ここに出てくる敵はヒドラだのナチスなどと違い「悪」ではない。

今回の真の悪役は非常に奥深いテーマを語りかけてくる。そこがいい。その人物の深い考察に対して、トニーの行動は浅はかな現代の人々を象徴するかのようだ。ようするに、復讐心をもつものが手段を持つと止まらない。戦争の発生原理、戦時に生まれ育ったスティーブはそれをわかっていたから黙っていた。初めて描かれるキャプテンのダークさ、というべき一面がこれまた衝撃的である。

アベンジャーズが各地で行ってきた破壊っぷりをVTRで振り返る場面は思わず大笑したが、改めてみると本当にひどい。これを逆恨みしてアベンジャーズを恨むやつが出てくるのは当然である。現実のアメリカも各地で紛争解決をしてきたが、同様にいまや世界で一番恨まれている。

ではその軍事力を国連なりの管理下におけばマシになるのか。それともキャプテンのような立派なリーダーを選ぶほうがいいのか。

それはともかく、アベンジャーズは二分されとんでもないバトルが開始される。

前作に続いてメガホンをとったルッソ兄弟のアクション演出はさらに磨きがかかり、シャッター速度をあげたコマ落としのような格闘シーンは戦争映画のようなリアリティ。マンネリを打破し、これまでのアベンジャーズシリーズでは本作が一番いい。冒頭のテロ阻止アクションだけで、誰もがこれまでとは一味違った凄みを感じられるだろう。

ネタバレ嫌いな方のためにここにはあえて書かないが、アドバイスとしては事前にどのヒーローがどちらにつくか、予習しておいたほうがいいかもしれない。でないと最大の見どころであるヒーロー大戦争の乱戦についていけない恐れもある。

キャプテン・アメリカの3作目ではあるが、事実上のアベンジャーズ3といってよいくらい豪華な本作。ファルコンやスカーレット・ウィッチの意外な大活躍ぶりも熱い。大人の事情が解消されたおかげで登場する新ヒーローも素晴らしい。バッキー・バーンズとスティーブの真の友情を描くくだりも感動的だし、迷えるトニーの人間味も十分描けている。そしてそのアイアンマンとキャプテンの壮絶な決戦シーンたるや、衝撃の結末とともに見応えたっぷりだ。

どう考えても決戦に加わったら反対陣営が不利すぎる最強のヒーローが、テキトーな理由で除かれているご都合主義もほほえましい限り。

ヒーローの人間的魅力がシリーズ中最も出ている「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」を、私は自信を持ってお勧めする。まだ時間はあるから、できる限り、マーベルシネマティックユニバースの全作品を見てからこいつを楽しんでほしい。



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