「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」70点(100点満点中)
監督:金子修介 出演:野村萬斎 宮迫博之

国産ミステリとしてはなかなか

古沢良太は日本の脚本家の中ではトップレベルの実績を持つ脚本家である。それは興収といった意味のみならず、純粋にいい物語を作り出すという意味で高評価に値する。作品数が多いから波はあるものの、「外事警察 その男に騙されるな」「キサラギ」など大当たりを複数生み出す力は誰もが認めるところだろう。「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」は、そんな彼のオリジナル脚本を「DEATH NOTE デスノート」等を手掛けた人気監督金子修介が映画化したものである。

売れないお笑いタレント、マイティ丸山(宮迫博之)のもとに、ある女子高生から妙な依頼が入る。行方不明のピアノ教師(木村文乃)を探してほしいというのだ。じつは丸山はかつて残留思念を読み取る特殊能力を持つ仙石和彦(野村萬斎)とお笑いコンビを組んでおり、少女は彼の能力を本物と見込んで依頼に来たのだった。だが肝心の仙石は、人間嫌いが頂点に達してすでにお笑い界を引退、マンションの管理人として他人とまったく接触せずひきこもる生活をしているのだった。

モノから思念を読みとる超能力、というのはありがちだし、人嫌いの探偵役その他の要素も、ミステリとして特段新しさを感じさせるものはない。だからそれ以外の要素で目を引く良さが欲しかったというのがまず一つ。

次に、作品のテーマとなっている人間愛というものについて。ひきこもりの探偵が人間愛に目覚めるという大筋の流れにして感動させたいと思うならば、そうしたものの凄みに彼ほどの超能力者でさえ圧倒される展開と演技を準備しなくてはいけない。その出来によって、感動と説得力がどれだけ増すかが決まる。

逆に褒めたくなるのはメイントリックというか、観客への騙しの部分である。ただアイデアはいいものの、演出は弱い。改善するには主人公の能力の無敵感をもっと高めておけば、ショックと騙しの効果が上がっただろう。人物自体は最初からひ弱で頼りない印象でそれはユニークだが、能力については描く順序が違う。無双してからその限界を超える出来事や敵が現れてこそ観客を出し抜ける。面白さもアップする。

褒めたくなる部分2としては、木村文乃のブラウスがびしょ濡れになる場面があげられる。あんなに痩せているのに意外と……と楽しい妄想を楽しめる。木村は当代きっての美人女優で雰囲気もあり、実に映画向きだ。彼女の少女時代のエピソードは、愛を象徴するものだが、すべてがつながる瞬間の感動はなかなかである。

まとめとして、脚本の良さを完全に生かし切っていない映画ではあるが、ストーリーという屋台骨がしっかりしているので十分に楽しめる出来。高校生や女性客など、それほどのハイクオリティを求めない客層が、テレビドラマレベルより面白いミステリを求めるならばいいチョイスとなる。

逆に、ハリウッド級のミステリドラマを求めてしまうとちょいと子供っぽい。それはさすがに酷である。



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