「フィフス・ウェイブ」65点(100点満点中)
監督:J・ブレイクソン 出演:クロエ・グレース・モレッツ ニック・ロビンソン

子供向きでもここまでやる

「フィフス・ウェイブ」は、日本では超大作アクション映画のように思われているが、実際は「トワイライト」あたりのメイン客、日本でいうライトノベルファンを対象にした子供向けアクション映画である。

アザーズと呼ばれる謎の地球外生命体の攻撃により、人類は滅亡寸前まで追いやられる。そんな中、軌跡手に生き残った高校生キャシー(クロエ・グレース・モレッツ)は、生き別れた弟を探すため銃を手にひとり戦い続けるのだった。

中高生向け終末映画ではあるが、だからといって子供だましでないところがアメリカ映画のすごいところである。

女子高生が圧倒的文明力を持つエイリアンの攻撃をかいくぐって生き残る。やがてハンサムすぎる年上のお兄さんと出会っていい感じになる。そんな胸キュン展開をはさみながら、本題である愛する弟をさがし続ける。

よくもまあこんなイタ恥ずかしいストーリーを書けるものだと思うが、これを大真面目につくってそれなりに面白くしてしまうのだから凄い。

もっともよく見れば、地球がほろびゆく災害場面のCGは粗雑だし、脚に大ケガをしたわりにはピンピン走ってたりと随所に粗っぽさが目立つ。

だがこの映画の客層がメイズ・ランナーとかトワイライト世代の女子だとすれば、そうした細部をしらみつぶしに調整して脚本との整合性をとるよりも、他に重視する。それこそが正義なのだということであろう。

じっさい、怪我した太ももを素敵なおにいさまに巻き直してもらう場面などは完全に女子目線のエロシーンになっているし、その素敵な男性の行水シーンまであったりする。女の子だって性的に興奮するのが自然なのよという、欧米ならではの価値観を感じられて面白いところだ。日本の女子向け映画ではこういう場面は過剰なまでにカットされるのが普通である。

その意味で本作は、切り捨てるべきは切り捨て、力をいれるところはいれるという、商業映画の根本的なルールをしっかり踏まえている。その指針となるコンセプトと対象が確固たるものとして作り手の間で共有されていることがよくわかる。

するとどうだろう、結果的に大人が見てもそこそこのクオリティになっている。これは、日本にはないタイプのジャンルの映画である。だから、日本人が見る価値がある。

クロエ・グレース・モレッツはキック・アス以来、ロリコン率の高い映画オタクや映画ライターのオジサン層に大人気だが、彼女を目当てにいくそうしたキモめの人たちにもこの映画は満足を与えてくれるだろう。

本来この役はティーン観客の形代でしかないのだが、そうした男性向けにはちゃんとスター映画としてのアピールがある。クロエ・グレース・モレッツの、そういうところは才能といえる。

そんなわけで「フィフス・ウェイブ」は、興味を持ったあらゆるタイプの観客を満足させる汎用性を兼ね備えた、万能性の高い一本である。



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