「家族はつらいよ」75点(100点満点中)
監督:山田洋次 出演:橋爪功 吉行和子

さすがに上手いホームドラマ

「母と暮せば」が、引退作にしてもいいというほど魂を入れ込んだ渾身作なら、間もなく公開される「家族はつらいよ」は、いかにも山田洋次監督らしい肩のこらない気軽なホームドラマだ。

平田家のあるじ、周造(橋爪功)は、妻・富子(吉行和子)の誕生日を忘れて飲み歩くなどほとんど傍若無人な毎日を過ごしている。ところが突然、富子から離婚届を出され、判を押すよう頼まれる。本人はもちろん子供たちも激しく狼狽、ささやかな一家の平和な日々に激震が走る。

非常に手堅い、安定の出来映えである。笑いもうまいし「東京家族」(2012)のキャストが再結集した役者たちの演技も的確、演出も筋運びにも破綻はなく、すべてが丁寧でミスもない。もっとここをこうしたら、がひとつも出てこない。ベテランらしい仕事である。

それでいて、物足りないということもない。たとえばきっちりまとめあげたラスト近くの寝室での会話。ここで監督は意図的に登場人物の首から上をフレームの外にだす構図で、その人物の心情を観客に想像させる。そしてその場面での役者は、首から下だけであきらかに完璧に演技している。二人の心の中が、しっかりと伝わってくる。本当にうまいショットである。感動的である。

このように、山田洋次監督の映画はいつでも頭のいい人間が作ったことがひしひしと伝わってくる。そこが安心感を与える。深刻な場面でも監督が笑わそうとしてくれるので、安心して委ねていられる。観客とのあうんの呼吸が実現されている。

この映画を見ると、夫婦、そして家族なんてものはこんな不完全なものだよなとホッとする。どうしよもなく全員が自分勝手でわがままなんだが、それもはたからみれば喜劇であるということ。当事者には見えにくい、そうした本質を見せてくれるのがとてもいい。

圧巻だったのは、病人が運ばれた直後、呆然とする家族の一人に一本の電話がかかってくる場面。

いいことも悪いことも次々と起こる。これこそ人と人が世代を繋ぎ、つながってゆく家族の素晴らしさである。この電話で登場人物も観客もどれほど救われたか。こういう場面をさらっと挿入するところに、とてつもないセンスを感じるのである。

家族を持てなかった人間にはつらいところだが、それくらいこの映画は家族というものを高らかに賛歌する。その説得力たるや、他に類を見ないほどだ。



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