「マネー・ショート 華麗なる大逆転」55点(100点満点中)
監督:アダム・マッケイ 出演:クリスチャン・ベイル スティーヴ・カレル

金融映画版ブラックホークダウン

アカデミー作品賞こそ「スポットライト 世紀のスクープ」にさらわれたが、欧州、米国、中国、そして日本と世界中が金融危機前夜の様相を呈しているいま、タイムリーさなら「マネー・ショート 華麗なる大逆転」も負けていない。

まるで観光客かヒッピーのような風体のトレーダー、マイケル(クリスチャン・ベイル)は信用度の低いサブプライムローンがそうは見えないよう、金融商品に組み込まれていることを見抜く。自分の判断に絶対的自信を持ってきた彼は、正規の空売りを仕掛けるが、それは祖国アメリカの崩壊に賭けるという意味でもあった。そして同じころウォール街の片隅には、マイケルと同じくわずかながら崩壊の兆しを嗅ぎ取った男たちがいた。

経済用語が躊躇なく飛び交うため、非専門家が予習なしで挑むのはなかなか難しい。少なくともリーマンショックのメカニズム、クレジット・デフォルト・スワップ、デリバティブ取引といった基礎的な部分についてはある程度仕組みを理解していないと、内容についていくのは困難だろう。

そこで、思い切り簡単にこの映画の構図を説明すると、国中がイケイケどんどんだった時代に、逆張り、すなわち正規の空売りをしかけた、ウォール街の反逆者たちの物語だ。

彼らがいかに凄かったか。それは単に逆張りをしたことだけではない。それ以上に、ある程度相場逆転の時期を読みきっていたことが凄い。「買いは家まで売りは命まで」と言うように、市場では長い間売りのポジションを持つだけでもリスキーといわれる。じっさい映画でも、なかなか「その日」が来ず、損失ばかりが膨らむ様子にあせる登場人物の姿が描写されている。

ここは体験者ならば胃が痛むような恐ろしい場面だとわかるのだが、この映画ではそのきゅんきゅんとした感じが伝わらず、なにやらあっさり耐えているようにすら見える点がよろしくない。金額がけた違いすぎて、想像しにくいと言うのもあるが。

ここに限らず、灰色の世界観と役者の役作りは、どこか現実感を払拭したつくりになっている。だが紛れもなくこれはじっさいに起こったことであると、見ている誰もが知っている。そこが恐ろしい。

そしてそれ以上に気味が悪いのは、この映画がなぜ今作られ、公開されているのかと言う点である。

アメリカでは1月、日本ではこの3月に公開されるわけだが、これ以上ない不気味なタイミングである。なにしろ本作は過去のいましめとして存在するのではなく、ほのかに示唆するのは「もうすぐ同じことが起きるぞ」ということなのだから。

私のように突出した直観・洞察力を持つものならば、世に出た瞬間から偽物だとわかっていたアベノミクスも、登場時は多くの経済評論家たちが絶賛していた。その輝きがまがい物だとばれ、泥船から逃げ出すように批判転向者が増えつつある今、政権最後の防衛線であるニッケイ株価は7月の参議院選挙まで果たして持つのかどうか。この映画の登場がその終幕の始まりになるのか、注目である。

 
世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)
この評判の書の映画化です。
アベノミクスの終焉 (岩波新書)
政府主導で株価を必死にあげた分、ハゲタカがかっさらっていきます。いつもながらの富の逆・再分配です。
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