「新劇場版 頭文字[イニシャル]D Legend 3 -夢現-」70点(100点満点中)
監督:中智仁 声の出演:宮野真守 小野大輔

香水は厳禁で

いま、都会の若者には車を買う経済的余裕がない。というか、若者でなくとも余裕がないので、こういう映画は自然と地方興行頼みと言うことになる。

父の豆腐店の手伝いで秋名山を走っているうちに驚異的なドライビングテクニックを身に着けた藤原拓海(声 宮野真守)の前に、最強のライバル高橋涼介(声 小野大輔)が立ちふさがる。赤城最速の男といわれる彼との対戦は、事実上の最速決定戦であった。

「新劇場版 頭文字[イニシャル]D Legend 3 -夢現-」は、上記の意味で地味な娯楽映画だ。しかし大事なところを押さえている優れたエンタテイメントだ。そしてデートムービーとしても申し分ない。上映時間が60分短い(その分、入場料も安い)のもほめるべき理由のひとつ。なにしろ若いアベックはこのあといろいろ行くところがあるのだから、このくらいの上映時間がよいのである。

さて、映画が始まると、前作までの短いダイジェストが流れるがこれが見事なまでに必要十分で、まるっきりシリーズを見ていない人でも完璧に内容がわかる。

そして本編開始となるが、単調になりがちなドリフトアクションが、この映画ではそれが出てくるだけですげえと思わせるレベルにまで到達している。まだ改善の余地はあるものの、このスタッフならそれもできるだろう。ぜひ外人がつくるドリフト映画に負けないよう頑張ってほしい。

ちなみに私が見た4DX版は、安くはない追加料金を払ってでも見るべき完成度の高さであった。つくりが完全にそれに特化しているので、皆さんも頑張って上映劇場までドライブすべきである。

もともと4DXは、スターツアーズなどのシミュレーター系アトラクションとしてはソフトな部類に入る。シートベルトもないから動きだって限定的だ。それを映像の力、つまりドラマで補えるか、相乗効果を引き出せるかが鍵になるわけだが、その点この映画は最大限にうまくやった。たとえばセクシーで魅力的なヒロインづくりに成功しているし、だから彼女が出てきていい香りがすると、観客も気持ちがわくわくする。かわいい子とデートをする楽しさを誰でも疑似体験できる。

むろん、欲を言うならドリフト時の表現にはもっと横Gがほしいし、コーヒーを飲む場面ではその香りもほしい。ラブシーンではさらにオンナノコな臭い成分を求めたくなる。だが、機械の限界もあるだろうからそれは現時点では望むべくもないのだろう。ただ、香りが飛ぶときには独特の機械音が目立つので、効果音でマスキングするなどさらなる工夫がほしいところ。全体的に音量ももっと上げてほしい。

一方、技術的な部分で特筆すべきは、車、すなわちコンピュータグラフィックスで描かれたメカ類と、人間の質感に差がない点。しかも原作者しげの秀一の絵のタッチをよく再現できている。これは地味ながら、こうした予算規模の作品としては、かなり大変だったのではないかと想像する。

「新劇場版 頭文字[イニシャル]D Legend 3 -夢現-」は男の闘争本能を刺激する映画ではあるが、女性にもすすめられると私は思っている。若い女の子は基本的に車が好きな生き物だからだ。

その意味で、この映画のいいところは見ると車がほしくなるところである。車は若者の生活を間違いなく豊かにする。あるとなしでは大違いで、とくに恋愛ライフについては顕著な差が出るであろうと断言できる。別にポルシェやハマーでなくてもいい、たとえ豆腐屋のロゴがあろうと、あるいは軽トラだろうと、自由に使える車があるのは大きい。TOYOTAは若者のクルマばなれなどと嘆いている暇があったら、こういう映画の制作者をどんどん支援するべきである。

相変わらず、この界隈には警官は一人もいないのかとか、どれだけ群馬は無法地帯なんだとか、豆腐は売れているのかとかいろいろと突っ込みたくなる世界観ではあるが、抜群の面白さと制作者の創意工夫が感じられる好編。くれぐれも、観賞後の帰り道は安全運転で。

 
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前作です。昔シルビアのターボ車でドリフトやりましたが、今はおっかなくてとてもできません。いろんな意味で。ハチロクは乗ったことありません。撮影につかった車は見に行きました。パンダトレノ、これまでは特段かっこいいとは思いませんでしたがこの漫画のあとはかっこよく見えますねえ。
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