「ザ・ブリザード」60点(100点満点中)
監督:クレイグ・ギレスピー 出演:クリス・パイン エリック・バナ

いまアメリカが求めるリーダー像

2016年のいま、こういう映画がハリウッド大手から出てくると、ああこの映画の裏テーマは「いまあるべき理想のリーダー像」なんだろうなと予想がつく。なにしろ今年はそういうものにアメリカ人が興味を持つ、4年に1度の特殊な年なのだから。

1950年代、北大西洋上で遭難した巨大タンカー、SSペンドルトン号はSOSを出すが、運悪く当夜は大嵐で救助船は出払っていた。残っていたのは定員わずか12名の小型救助艇のみ。しかもとても船を出せるような天候ではない。果たしてこの状況の中、沿岸警備隊員たちはどういう選択をするのだろうか。

混戦模様の大統領選真っ只中にこういう映画を見せられると、はたしてアメリカ人はどう思うのだろう。そんな風に考えながら見るとなかなかおつな一本である。

映画じたいはそこそこのVFXにそこそこの友情ドラマ、そこそこのロマンスに感動がちりばめられた実話エンタテイメントで、特筆すべき点はあまりない。しかしまとまりはいいので見て損をしたなどと感じることもないだろう。ファミリーからカップル等、ライトユーザーが気軽に見られる作品である。

展開として面白いのは、放っておけば沈んでしまうタンカー内で繰り広げられるドラマ。さすが船乗りというべきか、荒くれ者揃いの登場人物たちが見事な団結力を見せる様子が熱い。

適性あるリーダーがただしく導き、全員が力を会わせれば困難を克服できる。ここではそういうことを描いている。この構図は、現場に向かう沿岸警備隊のちっぽけな救助ボート内でのドラマでも繰り返されている。

3Dにするかどうかはお好みで選べばいいが、私なら無理して選択することはないだろう。

それにしてもこんなお手軽な娯楽ものが、同ジャンルの邦画では大作に属する海猿シリーズと比べても圧倒的なクオリティで登場する辺りが、ハリウッドの恐ろしいところである。海の怖さがひしひしと伝わるあたり、日本人にとって実感できる題材でもあり、きっと興味がある人も多いだろう。



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