「オデッセイ」70点(100点満点中)
監督:リドリー・スコット 出演:マット・デイモン ジェシカ・チャステイン マイケル・ペーニャ

マーズランキング1位確実な生存力

「ゼロ・グラビティ」が想像以上の高評価を得たからか、「オデッセイ」はえらくそれを意識したようなつくりのSF映画である。

火星探査中、不運が重なりひとり取り残されてしまった飛行士のマーク(マット・デイモン)は、次の探査機が来る4年後まで残されたわずかな物資をやりくりして生き延びるハメに陥った。地球との連絡手段がなく情報源は自分の頭の中だけ、生物が生きるにはあまりに過酷な惑星環境。四面楚歌の中、マークは決して悲観的にならず次善の策を考え続けるのだった。

ドキュメンタリータッチかつ現実感ある3D映像。「ゼロ・グラビティ」のいいとこどりで脱出ゲームを描く「オデッセイ」。以外にも宇宙マニアからは描写のいいかげんさを指摘されることが多いライバルと違い、こちらの考証は映画としてはかなりガチな部類に入る。

なにしろこちらはNASA全面協力、映画の公開に合わせるように関連の話題まで提供する。探査機の高精細な火星表面画像しかり、劇中の展開そっくりな宇宙作物の栽培ニュースしかり、長期間の疑似火星環境における居住実験などなど、そのたびに「映画『オデッセイ』では……」と続くのだからいたれりつくせりだ。

もっとも、この映画の中で誰もが「そりゃ嘘だろ、あるわけねーよ」と思うことの数々は、結構現実の実験結果などそれなりに根拠があるものが少なくない。むろんフィクションはたぶんに織り交ぜてあるが、基本的には現時点で想像、予想できる範囲の本格的な火星おひとりさまサバイバルドラマ、なのである。無人島やらでサバイバル生活をするリアリティショーが日米ともに人気だが、その究極版みたいなものといってもいい。

そして、その最たるものはNASAが中国に技術的な支援を受けてミッションのピンチを切り抜けようとする展開だろう。

あまり情勢に詳しくないものが見れば、どうにもここは不自然に見える。マンガチックな博士と美人の組み合わせが中国代表というのも漫画チックだし、彼らが人道的配慮と科学者の良心からアメリカへ協力しようとするのは、そのどちらもありそうにないからウソ臭さ満点である。

ましてその後、中国人民がこの救出劇をみなで固唾を飲んで見守り、その様子に一喜一憂したする。同様に米国民や英国民も一喜一憂する。この映画の地球には3か国しかないのかと思う。

そもそもNASAの技術を凌駕するとしたらロシアであるべきではないか。

しかし、だ。ネット民の厳しいフィードバックにさらされたウェブ小説版の原作にもこの中国爆上げ展開はあるのであり、つまり現在、いや少なくとも近未来の宇宙開発シーンを米中がリードするというのは、決して荒唐無稽とは言えない。

言い換えれば、考証重視で作るとこうならざるを得ないというわけだ。むしろ映画版は、小説版よりも中国の活躍度は大きく下がっているくらいである。NASAのささやかな意地ということか。

なお、これまた「ゼロ・グラビティ」を意識したかのような3D版だが、本作にはそれほど必要ないように思える。そもそも絵的なものよりも、リアリティショー火星版として、マニアックにこだわった文字通りの「リアリティ」を楽しんだらよろしい。

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
タイトルそのまんま。うまいね。


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