「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」65点(100点満点中)
監督:J・J・エイブラムス 出演:ハリソン・フォード アダム・ドライバー デイジー・リドリー

よくできたレプリカのよう

徹底した秘密主義で内容も映像も見せず、プレス試写などを繰り返して周知徹底を図るパブリシティの王道に背を向けたディズニー版スター・ウォーズ新章。なるほど、知名度も期待度も映画界の最高峰たるスターウォーズにはこれ以上の褒め記事はいらない、むしろ批判記事や酷評さえ避ければ勝てるという判断か。確かにその戦略は圧倒的に正しい。とくに中身の出来栄えを見た今となっては余計にそう思う。

最後のジェダイ、ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)が姿を消した。その命を狙う帝国軍の残党ファースト・オーダー陣営と謎めいた指揮官カイロ・レン(アダム・ドライバー)は、血眼になってその行方を追っていた。一方、レイア・オーガナ(キャリー・フィッシャー)率いるレジスタンスたちも、切り札としてのルークを探し求めていた。そんな中、ついにルークの行先が書いてある地図が発見されるが……。

ストーリーはシンプルで、ボール型ドロイドに託されたこの地図を、善と悪の両陣営が奪い合うというもの。世界観は複雑だが筋書きはシンプル。これぞシリーズの伝統である。これによってこのシリーズは、子供も楽しめる間口の広さと、大人が趣味として入れ込める奥行きの深さを両立させている。

ライトセイバーの斬り合いや、ブラスターの派手な打ち合い、宇宙船同士の戦闘など一目でわかるこれまたシンプルな見せ場も健在だ。シリーズ愛が強ければ強いほど、どこから見てもあのスター・ウォーズが戻ってきたと嬉しくなるだろう。

その再現性たるや、エピソード6が完成した翌日に作り始めたのではないかと思うほどで、ハン・ソロやレイアたちを演じる役者の加齢のほうに違和感を感じてしまうほどだ。衣装、美術、宇宙船や戦闘機のデザインその他、まさに正統なる30年後の世界であり、こういうものを一作目から38年もたって平然と作り上げる映像技術の進歩、J・J・エイブラムス監督はじめスタッフの細かい仕事ぶりには感服するほかない。これは本当にすごい。

どこを切っても旧作愛を感じられるところもファンにはうれしいところ。あのディズニーが自社のシンボルであるお城のクレジットを前にも後にもくっつけず、ちゃんとおなじみのオープニングの様式美を崩さなかったところもまたしかり。これもマーケティング調査の結果と言ってしまえばそれまでだが、スター・ウォーズにファンが何を望むか、マニアを社員に雇ってまで調べつくした彼らに死角はない。

個人的にもこの序盤は大いに盛り上がったと思うし、フィンとポーのバディな掛け合いも機能して、キャラも立ってるなと思ったが、戦争ストーリーの難所というべき、似たような見せ場の繰り返しによって序盤の興奮は徐々に失速してゆく。

わざと既視感を感じさせてファンを盛り上げようとするサービス精神あふれるこれらの見せ場も、よく見ればどれもオリジナルより劣っていることに気づくだろう。これをオマージュとしてほめたたえる気には、私はなれなかった。この監督にしては、どの戦いの場面にも熱さが足りない。むしろ、器用さしか感じられない。結局「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」は、この上なくよくできた模写の域を出ていない。

つまり、旧シリーズとシームレスにつなげた一点でJ・J・エイブラムス監督の職人芸を味わうことはできる。しかし、過去作でルーカスが目指したであろう、映画史を塗り替えんという創作魂や革新性はまったく受け継いでいない。

たとえばエピソード1〜3は、批判は受けたが当時最先端のデジタル技術、VFXを駆使することで新しい映画を作り出してやろういう気概にあふれていた。そういう意欲がこの映画からは感じられない。SWマニアの監督にとっては、ルーカスとスター・ウォーズというものは偉大すぎて、とにかく失敗しないように世界観をトレースしようというところからスタートしている。

実際彼はこれ以上なくうまくコピーしたが、そこがJ・J・エイブラムスの限界ではないか。ルーカスを追い抜いてやろう、出し抜いてやろうという大胆さ、野望は彼にはない。のびしろが期待できない以上、2作目の監督が交代になったことは、長期的に見ればシリーズファンには良いことだろうと思う。

「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」は、懐メロを求めるお年寄りが満足するだけのものは確実に持っている。しかし、映画・映像史をひっくり返してきた革新性、こちらの予想を常に上回るすごいものを見せ続けてきたスター・ウォーズシリーズの本質には、残念ながら届かずだ。

結局のところ、そういうことはルーカス自身がやるしかないのだろうが、今となってはそれも望みにくい。次の監督にはなんとしても次作で盛り返して、劣化コピーではない新しい、2017年ならではのスター・ウォーズで唸らせてほしいと強く期待する。

なお、私は字幕版と吹き替え版、立て続けに2回見てからこれを書いているが、その立場から言うと吹き替え版をお勧めする。字幕版を1度見ただけではかなり重要な部分が何か所かニュアンスが伝わらず、首をひねるところがあった。

日本語吹き替え版は、ヒロインの声の演技は少々難があれど、専門用語の表現などでセリフがわかりやすく工夫されていて、理解が深まりやすい。また、旧キャストが出てくるこの作品は、吹き替えのほうが琴線に触れるという人も少なくあるまい。



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