「ファンタスティック・フォー」55点(100点満点中)
2015年/アメリカ/カラー/106分/配給:20世紀フォックス映画 監督:ジョシュ・トランク キャスト:マイルズ・テラー ケイト・マーラ トビー・ケベル ジェイミー・ベル

前シリーズより下

マーベルヒーローの中でも登場が早く、ほとんど元祖的存在でありながら、映画化権を持つ会社が違うため映画界ではマイナーな存在に甘んじている「ファンタスティック・フォー」。05年から2作作られた前シリーズは、ジェシカ・アルバなど人気者をそろえ、それなりに出来のいいアクション映画だったが、結局尻すぼみでシリーズ消滅。しかしアイアンマンはじめ(映画版他社の)ライバルヒーローたちの大商いを見て、リブートという形で再び土俵に上がってきた。

発明少年だったリードは、小5にして親友ベンとともに物質転送装置の原型を発明する。ところが周囲ははなからバカにしてその本質を見ることもしない。唯一、バクスター財団のストーム博士のチームはその発明を高く評価し、リードを財団にスカウトするのだった。

さて、成長したリードはみずから仲間と転送装置に入り、異次元空間に行くわけだが、そこでトラブルが起き、おかしな能力を身に着けることになってしまう。同時に宿敵も誕生するわけだが詳しくは劇場で。

奮闘むなしく本作は米国では批評も興行もふるわず、前シリーズよりも悲惨な末路をたどりそうな雰囲気である。実際見てみると、やりたいことと結果がアンバランスで、確かにこれでは万人には勧められないな、という印象。

ジョシュ・トランク監督は前作「クロニクル」が好評で手応えを感じたのだろう。本作でも原作の設定をいくつか大胆に変えてきた。その理由は「クロニクル」と同じく、ティーンエイジャーのちょいとリアルな青春ドラマ、ナイーブな世代ならではの悩みと葛藤を強調したかったからだろうと思う。しかし「クロニクル」とは違い、本作では人間がしっかり描けておらず、どうもうまくない。

たとえば序盤の小学5年生時代。キテレツも真っ青な発明好きの主人公がその才能で、アメリカンドリーム的なチャンスをつかむくだりは悪くない。物質転送装置という発明自体は架空でも、こういう成功物語はアメリカなら普通にあることだ。観客の子供たちにもいい影響を与えてくれるのではと期待する。

だが、やがて最高のパートナーとなるベン・グリムとの出会いなど、大事な部分におけるインパクトと感動が薄い。優等生とそうでない二人がひょんなことから力を合わせることになるわけだが、ここはもう少し工夫がほしい。公開中の「バクマン。」の原作にしても、こういうきっかけの部分に気を使っているからその後に入り込める。

そのうえこの映画では、彼らが結びつく理由でもある「家族との関係」が中途半端である。家を飛び出すほど悪化しているわけでもなく、居場所を失っているわけでもない。なのに、彼らがヒーローになってからも、家族というものがこの映画には全く不在である。必要があってそうしているのではなく、描くことを忘れているか、重要視していないという様子。これではいけない。観客の共感は得られない。

とくに「ファンタスティック・フォー」の場合、アクションシーンを極力削ったドラマ映画だから、こういう部分が足りないと、ほとんど魅力が無くなってしまう。もう少し丁寧な人間描写さえあれば、見応えもあったと思うのだが。



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