「一献の系譜」45点(100点満点中)
2015年/日本/カラー/103分 配給:グリクリエイツ 監督・プロデューサー:石井かほり ナレーション:篠原ともえ

人物に焦点をあてたドキュメンタリー

「一献の系譜」は、能登を舞台に伝統的酒造りを行う杜氏の世界を、人物に焦点を当てて描くオムニバス形式のドキュメンタリーである。

日本人ならば、日本酒の魅力は多かれ少なかれ知っているものだ。お正月や結婚式には、子供たちでさえ杯を持つくらいはするし、独特の香りは原体験として私たちの鼻腔に残っている。

あらゆるお酒の中でも特別なものである上に、その繊細な味わい、酒造りの職人的側面も興味深い。だからドキュメンタリーの素材としては、多くの人が追いかけたいと思っているはずだ。

だが、酒造りとは忍耐と待ちの世界であるから、絵的にもお話的にもそうおもしろくなるとは思えない。すばらしい吟醸香も、画面だけでは伝えられない。そこで石井かほり監督は、ユニークな構成とアピールポイントを設定した。

それは人物にフォーカスし、その相伝と継承の時間軸を縦軸として、各キャラクターの位置づけを決めていくというものである。同時に横軸はその人物の業界内における評判や得意技ということで、彼らのキャラクターを際だたせる。

この映画を見ると、まるでドラゴンボールの登場人物のように、それぞれの現役杜氏に個性と共感を感じられるように工夫されているのがわかる。

日本酒文化をわかりやすく伝えるためならば、こういうやり方もありというわけだが、残念なのはそれぞれの人物たちのパートが、監督の狙いほど描きわけられているように感じないこと。結局、この世界は地味な職人気質の固まりのようなもので、どう描いてもとっつきにくい点は否めない。

それでも日本酒というものが想像以上の科学的試行錯誤の積み重ねで進化してきたこと、人間的な幸せを犠牲にしてきた先人たちのおかげで「道」として追求されてきたこと。この映画では、そういった奥深さを知ることができる。

厳寒の地で作られることもまた、ストイックな日本酒づくりのイメージを高めており、今後飲むときは自然と感謝の気持ちがわいてきそうである。

一時は糖類などの混ぜもの入りがはびこっていた時代もあったが、こうした本物を伝え、支えられるような法整備、そして消費者の理解は大事だなと感じざるを得ない。そうした点で、本作の存在意義は大いにある。

これに比べるとビールなどは、庶民から税金を搾り取りたい役人と政治家の浅はかな政策により、得体のしれないまがいものばかりが増え、本物がどんどん片隅においやられている。酒文化とはその国の人間の歴史そのものであり、彼らはそれを冒とくしている。こうした愚を、日本酒においては絶対に許してはならないと改めて思う。

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あんまりまずい酒というのはなくなりました。


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