「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」60点(100点満点中)
監督:ホーヴァルド・ブスネス

愛がある人間の物語は心を打つ

「シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人」は、タイトルにもなっている二人の婆さんが、今の殺伐とした時代を嘆き、なぜこんなことになってしまったのかを知るためにウォール街の偉い人に質問しに行くドキュメンタリーである。

シアトルに暮らす86歳のヒンダは口が悪く、テレビや新聞を見ては悪態をつく毒舌婆さん。親友のシャーリー92歳はそんなヒンダをなだめつつ、穏やかに見守るお婆さんだ。そんな二人に共通するのは、なぜアメリカはこんなせちがらい国になってしまったのだろうと疑問を持っていること。

その彼女らなりの予想は、経済成長至上主義が元凶ではないかというものだ。効率を求め、労働や社会から人間味を排除するこのシステムは、アメリカのいいところを徐々に削っていったのではないか。本当に経済成長とは、必要不可欠なものなのか。

その疑問を解くため、二人は行動を開始する。この行動力がまたとんでもないもので、二人わせて180歳近いというのに彼女たちは近くの大学の経済学の講座を受講しに行くのである。だがそこには満足のいく答えはない。

このシーンはなかなか象徴的で、普通の感覚からすればまっとうな疑問や質問をぶつける二人に、講師と大学がどんな態度をとるかに注目してほしい。空気を読まない二人の婆さんもとんでもないが、それにしても大学側も情けない。

さて、その後彼女たちがどうするかというと、もっと偉い人たち、この国を動かす人たちに直接聞こうということで、あらゆるところにアポを取る。世の中に年寄りは数あれど、世界銀行に電話をして総裁に会ってくれと頼む年寄りはそういないだろう。この向こう見ずなバイタリティは大いに見習いたい。

このほか「かつて世界大恐慌で父も仕事を失ったわ、だけどそのあとよくなった。だから心配しなくてもいいの」と語る場面など、激動の時代を生きてきた年寄りが言ってこその説得力ある名せりふもいくつかあって、なかなか目が離せない。

思うようにならないと痛烈な悪態をつくヒンダのキャラも立っていて、経済問題ドキュメンタリーながら退屈せずに楽しめる。

打ちのめされ、門前払いを食らい続けることになる彼女たちが、孫娘を見ながら語る場面がある。二人がなぜここまで執拗に冷たい世間に食らいつくのか、その動機が明らかになるセリフである。ここで観客は強く感動し、共感するだろう。二人には確固たる愛があり、だからこそこの映画は面白い。

やがて徐々に、彼女たちの謎解きのヒントを与えてくれる人たちが現れる。経済成長至上主義に反論する識者たちである。彼らの論理的かつユーモアのある反論に観客は大いにうなづき、しかし現実とのギャップに腹立たしい思いをすることになる。

二人のお婆さんは果たして最後、どこまで踏み込むことができるのか。やりやがった! と驚くこと請け合いのクライマックス。強大なこの世界の支配者たちに、一矢を報いることはできるのか。

痛快で、感動的で、そして考えさせられる一本。アベノミクスの行方に疑念を抱き始めた方には特におススメである。

経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか (平凡社ライブラリー)
こういう本を読んで、たまには考えることも大事だと思う


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