「Dearダニー 君へのうた」75点(100点満点中)
監督:ダン・フォーゲルマン 出演:アル・パチーノ アネット・ベニング

実話をちょっぴりだけもとにしたいい話

「Dearダニー 君へのうた」は、「届かなかったジョン・レノンからの手紙」というべき実話を基にし た感動ドラマだが、アル・パチーノ熟練の演技力とジョン・レノンのオリジナルスコアの完璧なハーモ ニー、そして挿入される新曲の出来のよさによって相当見ごたえのある良作に仕上がった。

とっくに盛りは過ぎたが昔のヒット曲を歌えば大会場が満員になる往年のロックスター、ダニー(ア ル・パチーノ)。そんな彼は、デビュー間もなかったころに届くはずだった憧れのジョン・レノンから の電話番号つきの手紙を偶然受け取る。その文面に心を射抜かれた彼は、ドラッグ漬けで気力を失って いた自堕落な生活を改め、長年会っていなかった息子へ会いに行くが……。

運命のいたずらでジョン・レノンからの手紙を受け取り、その文面が明らかになる瞬間に流れるのが 「イマジン」。そのときのアル・パチーノの表情、手紙の文面──。この瞬間、第一の涙腺崩壊シーン がやってくるわけだが、その後もレノンのヒット曲がうるさくない程度に、やや控えめなほどに登場す るたび物語は大きく前進する。

この手紙は、一人の老年ロックスターが、遅ればせながらまともな人生を歩もうと決意するに十分なイ ンパクトである。だが、長年の不義理はそう簡単に埋まるものではなく、会いに行った息子一家は彼を さらに打ちのめすほどの過酷な運命を背負っている。

自分自身のやってきたことのツケを払うように、彼は積み上げてきた莫大な財産を惜しげなくそこにつ ぎ込み、必死に抗おうとする。いくつかの驚きの仕掛けを経て、この感動的な脚本はどこに私たちを連 れていくのか。

破天荒で金持ちなロックスターならではの旅を見ているだけでも楽しい。ふらっと予約もせずにホテル に現れ、驚く若者たちに高額のチップを渡し、フランクに話しかける。彼は家族を取り戻すための旅を しているわけだが、その過程で彼らにとってのジョン・レノンの手紙の役割を知らず果たしている。そ んな物語構造になっているあたりがまた感動を誘う。

ダメな男でも、人のために役に立てる。やってきたことには意味があり、どんな人間にも与えらるもの があるのだとこの映画は伝えてくる。この大変な時代に生きる中高年にとっての応援歌にもなっている。

何十年かぶりに作り上げる主人公による新曲、これがまたすばらしい。ジョン・レノンをどこか彷彿と させる旋律はそれらと並べてもそん色なく、クライマックスを盛り上げる。

ラストショットはまれにみる完璧なもので、ここ以外に切るところはないねというべきもの。

これは、多くの人にとっての第二の人生のモデルケースではないかもしれない。だが、幸せとは何なの か。それを示唆してくれることは確実である。見て損のない感動ドラマ。大切な人とどうぞ。

レノン・レジェンド ― ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ジョン・レノン
手紙のシーンとラストシーン、これはぜひ見てほしい。


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