「ムカデ人間3」25点(100点満点中)
監督:トム・シックス 出演 ディーター・ラーザー ローレンス・R・ハーヴィー エリック・ロバーツ 北村昭博

なおこの点数は間違って昆虫好きの一般人が見ないためです

1の物足りなさを見事に伏線としたガチ恐怖ムービーである2で最高点に達したムカデ人間シリーズは、最終作となる3で残念ながら失速した。

あらゆる数値が全米最悪といわれ、経営の改善を求められている刑務所の所長ビル(ディーター・ラーザー)。妙案を探す彼に助手のドワイト(ローレンス・R・ハーヴィー)は、なぜかB級映画「ムカデ人間」シリーズをすすめてくる。はたして500人の囚人をかかえる所長は、どんな手段で刑務所の経営改善を目指すのだろうか。

……とはいえ、シリーズの中ではもっともあからさまに社会批判も行っており、もう少しだけうまく作れていたらと思わせる惜しい一本でもある。

ムカデ人間が何を批判するんだと苦笑されそうだが、500人がムカデ状につながるこの映画が比喩するのはズバリ、「星条旗の元であらゆる人種が一つになる」アメリカの理念を比喩している。

黒人も日本人もユダヤ人もひとつになるムカデ人間はその究極体というわけだが、はたしてその結果どうなったか? 実は、アメリカが建国以来、もっとも大事にしているあるものを全員が失うのである。

このテーマは、ムカデ人間の進化版というべき○○○○人間でさらにわかりやすく描かれているので、さほど注意深い観客でなくとも、この作り手が言わんとすることを理解できるだろう。

じっさいアメリカは一部の刑務所が民営化されている国であるが、民営化というのは要するに経営コストを下げるという意味でもある。

一人分のご飯で500人をまかなえるムカデ人間は、これまた究極のコスト削減、合理主義の極みであり、そうした部分もまたアイロニカルで面白い。

人道的見地から反対していた知事が、ある条件を提示されたとたん、意見を変える場面はまさに見所で、なるほどそういうことなのかと合点が行くことだろう。

映画としてのマイナス点は、シリーズに登場した懐かしい顔ぶれを再登場させることで、むしろ作ってる側のテンションがあがりすぎていること。とくにディーター・ラーザーの独り舞台は余りに長すぎる。のハイテンションの長丁場には、もはや誰もついていけないのではないか。

この部分は、あまりに空気が読めておらず、ファンが望むものともちがうと感じる。確かに面白いキャラではあるが、肝心のムカデ人間制作いたるまで、あんなに長い時間もたせられるほどではない。早く本題に入れよと、誰もがイライラすること間違いない。

もっとも、早くつなげろよなどと思う観客の発想自体が狂気なのであり、それを身をもって気づかせるという点では、あの引っ張りまくりも間違っていないのかもしれないが。



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