「人生スイッチ」70点(100点満点中)
監督:ダミアン・ジフロン 出演:リカルド・ダリン オスカル・マルティネス

人生、一寸先は闇

カンヌ映画祭に正式出品され、絶賛されたアルゼンチン映画、なんていうとどこか小難しいドラマかと思うがさにやらず。「人生スイッチ」はそうした堅苦しさはゼロの、単純に楽しむべきオムニバスドラマである。

ではどんな雰囲気の映画かというと、あんなに悪辣ではないが「ファイナル・デスティネーション」とか、あるいは昔のヒッチコック劇場みたいな感じといえば中年以上の方にはわかりやすいところか。

ある旅客機に乗り込んだファッションモデルは、隣の中年紳士など周辺の人たちと会話するうちに奇妙なことに気付く。彼女の元彼を、なぜか皆知っているのだ……。

このオープニングから始まる6つの物語につながりはなく、順番にもあまり意味はない。というのも監督が物語を思いついたままの順番で並べてあるから。……とはいえ、終わってみると、必ずしもそうとは思えないほどできすぎた順序になっていて驚かされる。

どの話にも共通するのは、さりげない選択のせいで、人生が大きく変わってしまう人間たちの非喜劇ということ。そのとっちらかりぶりに驚愕するもよし、ピタゴラスイッチのごときありえねー転がり方に笑うもよし、だ。

監督さんは車に恨みでもあるのかと思うくらい運転関連のネタが多いが、個人的なおすすめは追い抜きざまに罵倒したノロノロ運転の主がキチガイだった、という話。

いつもニコニコ、どんなに罵倒されようが、相手が佐々木希みたいな顔をしていればまず怒らない私のような温厚な人間であれば、こういうことはまずありえない。だが、血の気の多いドライバーならこの程度のトラブルは日常茶飯事かもしれない。そんな一瞬の選択が、恐ろしい結果を引き起こす。スピルバーグもびっくりの面白い短編である。

とはいえ、意外とブラックさや残酷さは控えめなので、刺激をほしがる方には物足りないかもしれない。それでも、日常をちょいと離れてビターなお話を体験することで、自分の暮らしについて安心感を得たり、あるいは改めて見直したいと思わせてくれる点で、面白い上に多少の役にも立つオモシロ映画といえるだろう。



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