「HERO」55点(100点満点中)
監督:鈴木雅之 出演:木村拓哉 北川景子

高齢者になるまでラブコメをやる気か

平均視聴率34%超えという人気を誇るテレビドラマ「HERO」。14年のセカンドシーズンはかなり数字を落としたが、それでも20%を超えてくるのだからあなどれない人気ぶりである。

映画版二作目となる「HERO」も、タイトルをまったく変えないことからも、作り手が相当な自信を本作に持っていることがうかがえる、東宝夏のキラーコンテンツである。

コンパニオンの女が交通事故死した事件を調べていた検事・久利生公平(木村拓哉)の前に、いまは大阪で検事をつとめるかつての部下、雨宮舞子(松たか子)が現れる。彼女の登場により、死んだ女が重要証人だったこと、現場がネウストリア大使館の裏だったことが判明し、事件は予想外の展開をたどる。

8年ぶりの松たか子登場と話題だが、何の違和感もない、まるで先週まで放映していたドラマの続きのような映画である。

それにしても驚くのが、いまだに二人のラブコメがどうやら続いている、続けるつもりという点である。

むろん、彼らは見た目は若々しいが、劇中でも離れて8年間がたっている設定であり、二人とも正真正銘、徹頭徹尾、中年男女である。そんなのが、好きなのに、好きだから、好きと言えない、なんてホリプロのアイドルが歌うようなラブコメをやっている。

二人ともあれだけのルックスだからぎりぎり持っているが、このまま彼らが高齢者になるまで、ダメよーダメダメと続けるつもりなのか。人気者だしプロの役者だから言われれば何度でも演じるだろうが、いいかげん、フジも許してやれよといいたい。

さて、型破りな行動派検事が今回ぶち当たるのは、法律家にとって越えられない最強の壁。大使館である。その建物のモデルとなったロケ地の兵庫県公館は、実にムードがあり、そしてでかい。

劇中のネウストリアとは、今は現存していない、いわば架空の国といってもよいだろうが、この規模の大使館をもつとなると相当な大国である。その名前からも、あるいは描かれている文化などからもフランスを思わせるが、メタファーとしてはむしろアメリカあたりを意識しているのか?

たしかに犯罪者をかくまったりする展開は沖縄米軍基地を思わせるし、貿易交渉の重要な局面真っ最中との設定は、まさにTPP交渉を思わせる。

すわ、こいつはそんなやっかいな現実問題を暗喩した映画で、キムタク検事がそこに踏み込んでいくのかと期待したが、残念ながらそれ以上そうしたテーマへの言及はあまり感じない。

むしろ、キムタク検事の口から語られる「歴史認識は違っても、主張はしないといけない」なんてセリフは韓国をすら思わせる。

おそらくネウストリア国に明確なひとつのモデルはなく、あらゆる日本の外交姿勢・問題をひっくるめての批判、いわゆる戦後レジームからの脱却というやつではないのか。だがそれではフジは映画でまで安倍総理大臣にお追従、ということになってしまう。そんな弱腰で大丈夫なのかと逆に心配になる。

ともあれ、そんな勇み足な解釈論から離れて純粋に「HERO」というコンテンツを見ると、これはさすがに時代遅れな感じがする。

前作公開時に批判した「新しいファンを育てる気がない」点も改善されていないし、そうした私の危惧通り14年のドラマの視聴率もだいぶ低下してしまった。このままでは、尻すぼみで消えていく運命だろう。消費文化の権化たるフジテレビらしいといえばそうなのだが。

久利生みたいな魅力的な男が、閉塞感あふれる現代の社会悪にずかずかと踏み込み、切り捨ててくれたら本当に格好いいだろうに。それぞれの時代で、彼のような男は必要とされている。息の長いシリーズに育てることもまだまだ可能だ。なのにこの無難で優等生で、ちょっと古びた作りは何なのか。

日本最強のドラマの作り手がこれでは先が思いやられる。キムタクの奮闘も空しい限りだ。



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