「ラブ&ピース」60点(100点満点中)
監督:園子温 出演::長谷川博己 麻生久美子

印象に残るも、もう少し突き抜けたい

「新宿スワン」(2014)、「リアル鬼ごっこ」(2015)、「映画 みんな!エスパーだよ!」(2015)と立て続けに監督作が続く園子温監督。公開頻度もハイペースとなっているが、そんな中でも「ラブ&ピース」は、監督自身のパーソナルな好みが色濃く出た印象のシュールなドラマだ。

ミュージシャンの夢もやぶれさり、しがないヒラ社員で生きる鈴木良一(長谷川博己)。同僚の寺島裕子(麻生久美子)の思いは打ち明けられぬ引っ込み思案な彼は、あるときカメ売りから手に入れたミドリガメに心奪われる。ピカドンと名付けたそのカメに話しかけるのが心の平安となった彼だが、あるときそれを職場に見つかってしまい……。

コミュ障のごとき青年が、ミドリガメと痛々しい交流(というより一方的な語りかけ)を描く前半と、なぜか怪獣映画になる後半。いったいその二つがどうつながるのか、見る前はさっぱりわからないであろう。そんなナンセンスな物語である。

これとは別に、西田敏行演じる謎めいたホームレス風のおじさんが、どこかの下水道地下で動くおもちゃたちと交流する、これまたわけのわからないドラマも平行する。

このCG全盛時代に一見チープな特撮で描かれる怪獣パートからは、監督のこのジャンルへの愛情が感じられる。チープと書いたが、背景などは相当な作り込みがなされており、迫力はそこそこ。

とはいえ、いまどきそこを目当てにいくほどのものでもないわけで、やはり対象は監督の大ファン、ということになろう。

成功しても反骨精神を失わない園子温監督らしさが色濃くでた内容は、見る人によっていろいろ解釈ができる。たとえば、捨てたものがまわりまわってしっぺ返しをくらう、といったテーマ。

日本、または日本人は戦後、その場の体裁とか世間体なんかのため大切なものをすててきた。その中には、捨てるべきではなかったもの、捨てたくなかったものもたくさんあったろう。それがやがて肥大化し、捨てた本人に何かの爪痕を残してゆく──。

そういうものごとは繰り返し行われるが、決して元に戻るわけではない。輪廻のたびに確実に何かがズレてゆき、付加逆的な変化をもたらしてゆく。

地下の物語もそのあたりの言及をしているが、西田敏行の正体はかなり早くに割れるものの、クライマックスの演技はすばらしい。ダーク風味の地下エンディングは、きっと大勢の涙を誘うだろう。

この映画、音楽がとてもいいので、相当ヘンな映画だがなかなか見せる。それでもたとえば「リアル鬼ごっこ」(7月11日公開)にくらべると、突き抜け感が圧倒的に足りず中途半端な印象。

ファンならみてもいいとは思うが、そうではない、単にエッジのきいた作品を探しているという方は「リアル鬼ごっこ」を待ったほうがいいかもしれないとアドバイスしておきたい。

ラブ&ピース
本もかいてます、監督。


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